和装本の巻冊次(1)~ASで作成するデータについて~
こんにちは。データ部AS・伊藤です。主に和装本を担当しています。
現代書では「巻次」は「冊次」と同じように使われますが、和漢古書では「巻」と「冊」が一致しないこともしばしば。そもそも書誌作成単位をどうするか、巻冊次を書誌に記録するのかという問題はあるのですが、それはひとまず措いておいて、和装本の題簽(題箋)(だいせん)や表紙に見られる冊次の表記について、ちょっと書いてみようと思います。
現代書と同じように、「一・二・三~」の序数になっているものや「前・後」「上・中・下」などはわかりやすいのですが、「乾・坤」「甲・乙」などはいかにも古めかしいですね。「麟・鳳・亀・龍」(霊獣)、「宮・商・角・徴(ち)・羽」(中国音階)、「仁・義・礼・智・信」(儒教の徳目)、「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」(十二支)など、知識が求められるものも。「元・亨・利・貞」(『易経』)、「賦・比・興・風・雅・頌」(『詩経』)など、経書(けいしょ)(儒教の経典(けいてん))に由来するものもあります。
それが巻冊次であることに案外気づきにくいものとして「本・末」というのがあります。「唐物語(からものがたり) 本」とだけあって2冊目が欠けていたら、この「本」とは何のことか、一瞬わかりかねるかもしれませんね。
逆に「本」が巻冊次だとわかれば、手元の「唐物語」がもともと2冊セットだったことがわかります。同様に、「他山之石 宮」「他山之石 角」という2冊だけが手元にある場合、この「他山之石」はもともと5冊セットだったことがわかるわけです。
ただ注意が必要なのは、「上」がもと「上・下」の2冊セットである場合と「上・中・下」の3冊セットである場合とがあるように、残された冊から推測できるもとのセットの冊数が何パターンか考えられるケース。「元・亨」「麟・鳳」とあったら、これで完結している場合と上記4冊セットの場合と両方考えられます。「甲・乙」もこれで完結しているかもしれませんし、「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」(十干)で10冊セットの一部かもしれません。
また同じ文字が違う一揃いの中で使われる場合もあります。たとえば、「礼」は「仁・義・礼・智・信」という5冊セットのほか、「礼・楽・射・御・書・数」(『周礼(しゅらい)』にある、君子の身につけるべき教養・「六芸(りくげい)」)の6冊セットの場合でも使われます。
「月」なども、「日・月」で2冊セット、「雪・月・花」で3冊セット、「花・鳥・風・月」で4冊セットという具合に使われます。ちなみに、「日・月・火・水・木・金・土」で7冊セット、などという古書はありません。
なお、「月」を使ったセットと言えば、「花・月・雪・星・宙(そら)」に決まっている!とおっしゃる方もいるかもしれませんが、残念ながらそういう古書もないと思います。宝塚ファンの皆様、申し訳ありません・・・。
ということで、では最後にクイズを二つ。
(1) 手元に3冊ずつ別々のセットものの一部と思われるものがあります。片方の巻冊次は「金・木・火」とあり、もう片方は「金・木・石」とあります。それぞれ何冊セットの一部でしょう。
(2) 手元にセットものの一部で、巻冊次に「天」とあるものがあります。もとは何冊セットの可能性があるでしょう。