« 2014年7月25日 | メイン | 2014年7月29日 »

2014年7月28日 アーカイブ

2014年7月28日

和漢古書と現代書(「和装」「和本」「和書」(5))~ASで作成するデータについて~

こんにちは。データ部AS・伊藤です。主に和古書・漢籍を担当しています。

前回まで書いてきたように、NCRの「和古書」と「漢籍」の規定は、「内容による区分」と「書写年・出版年による区分」との両方を含んでいますが、この「書写年・出版年による区分」には「主として」という断り書きがあるのは前々回見たとおりです。この点について、具体的にはどのように扱えばよいか考えてみましょう。

以前書いたように、漢籍にしろ和古書(国書)にしろ、現実の出版・造本のあり方が、ある年でスパっと切り替わるわけではありません。慶應4年刊の図書と明治2年刊の図書とでは、多くの場合基本的に造りに違いはありません。多巻物、とくにこのころだと合巻(ごうかん)というジャンルのものにしばしば見られますが、はじめの巻は江戸時代に書かれて出版されていたものが、御一新をまたいで明治以降にもつづきが刊行される、といったこともよくあります。そうした場合、多くの場合もちろん本の体裁も何も変わりません。こうしたものなどを、機械的に年代で切り、片や和漢古書、片や現代書として扱うことが不合理なのは言うまでもありません。
これも前に書きましたが、和漢古書と現代書で目録の取り方を変える必要があるのは、和漢古書の場合、製作部数・現存部数がきわめて少ないので、一点一点の個別の資料の情報が重要であるのに対し、現代書は同版同刷で大量のものが残っており、一点一点の個別の資料で別々に書誌を作成する必要が無いからです。ということはどういうことかと言うと、和漢古書と現代書とを区別するポイントは、「装丁の違い」とかではなく、大量複製ができるか否かの「印刷方法の違い」だということです。木版印刷で一度に刷れるのは最大で数百部ですし、書写であれば一度に複製できるのは基本的に一部だけで、そこが大量複製できる現代書とは決定的に異なります。
そしてその印刷方法の大変換が起こったのが、日本では明治維新以降、中国だと辛亥革命以降であるわけですが、もちろんそこですべての本がいっせいに切り替わったわけではなく、明治以降でも筆による書写や木版印刷は営々と行われつづけます。とくに木版印刷の場合、版木さえあればいくらでも再刷りができますから、江戸時代に作られた版木を使って刷った本というのは相当量あります。こうしたものは造りも見た目も江戸時代以前のものとほぼ変わらず、当然和漢古書扱いすべきものです。
また江戸時代以前の伝統的な学術体系に則った著作や漢詩文集などは、内容が明治以降に成立したものであっても、体裁は昔のもののごとくに木版で刊行していたりします。こうしたものも、和漢古書扱いしたほうがよい場合もしばしばあります。ただし、本文の体裁は昔のようであっても、銅版や金属活字で印刷されたものはやはり現代書とすべきでしょうし、逆に木版のものでも、教科書や近代科学書・法律書など、明治以降になって初めてその体系が移入・成立したものは、和漢古書とはしないほうがよいでしょう。ペンや鉛筆など、明治以降になって初めて登場した道具による書写資料も同様です。
ちなみに、和漢古書としたほうがよいものと現代書とすべきものの割合が完全に逆転するのは、明治10年代と思われます。なお、謡本・書道手本・図録などは木版での刊行がかなり後までつづきますが、これらについては明治以降のものは原則みな現代書としたほうがよいでしょう。

中国の場合も基本的に同じで、民国以降もしばらく清以前と同じような本文のスタイル(体例(たいれい))の木版本が出続けますので、これらは和漢古書扱いしたほうがよいでしょう。なお、中国の場合、辛亥革命(1911)以前の19世紀後半から石印本・鉛印本といった新しい印刷方法による図書がかなり発行されていますが、これらも伝統的な体例であれば、和漢古書扱いすべきです(民国以降の石印本でもそうしたほうがよい場合もあります)。こちらでエポックメーキングとなるのは、現代中国での歴史区分でもそうしていますが、五四運動(1919)前後と言ってよいでしょう。

「和古書」「漢籍」すなわち和漢古書と現代書との弁別は上記のとおりですが、実際の作業にあたっては、もちろん、対象資料全体の構成から柔軟に考えるべきものと思います。
ちなみに、こうした「和古書」「漢籍」をまとめた言い方として「古典籍」というタームがあります。『古典籍総合目録』『日本古典籍書誌学辞典』『日本古典籍総合目録データベース』『古典籍総合データベース』などの「古典籍」ですね。「和漢古書」というのと同義と言ってよいと思いますが、ただ「古典籍」と言うと何となく格調の高い感じがあります。「古典籍」と称されるものの中に、実用書や娯楽本、はては猥本と言ってよいようなものを含めるのはちょっと気が引けるようであり、そうなると図書館的な「和漢古書」という言い方が、いちばん価値判断を含まず適切なのかもしれません。
さて、では具体的に、いま手にしている「和漢古書」が「和古書」なのか「漢籍」なのか、「和本」なのか「唐本」なのか、どうやって区別するのか? それは次回で(なお、次回はお盆休み明け以降になります)。

2024年7月

  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

アーカイブ

全てのエントリーの一覧

リンク