今月の雑記は教科書。全然授業で使わないまっさらな図工や美術の教科書をぼんやり眺めるのも好きでしたが、私は小学生のときの国語の教科書が一番印象に残っています。
ざっと思い返してみても、くじらぐも、三年峠、ちいちゃんのかげおくり、赤い実はじけた、まどぎわのトットちゃん、などなど。内容を完全に覚えているものはあまりないのですが、タイトルだけなら結構浮かんできます。たいして中学・高校時代のものはまるで浮かんでこないのはなぜなのでしょう。
ここで個人的思い出のベスト2作品を記してみたいと思います。
まずはスーホの白い馬。馬頭琴という音のひびきがすずやかでこども心に残っています。お話自体は悲しい内容で遠い国の異国情緒あふれる挿絵と不条理な仕打ちにショックを覚えた当時の気持ちも覚えていますが、なんだか惹かれるものがありました。
ひびきがすずやか。その連想でいくともうひとつ浮かぶ、ベスト1はやはりこれ。
宮沢賢治のやまなしです。同意してくださる方も多いはず。
かにのこどもたちが澄んだ川底から天井を見上げる描写がまっすぐで透明な文体が心地よいです。そして議論の的であるクラムボンの正体。泡だとか魚だとかやまなしだとか光だとか、話のなかには直接的に描かれていない、なにかだとか。いまでもクラムボンが何なのか、私はよくわからないままですが、かぷかぷわらったよ、というひびきがとにかく大好きでした。イサドという音のひびきも地名であるらしいこと以外はよくわからず、空想の世界へ連れ立ってくれます。また青や白、黒、黄金色といった場面ごとの色のイメージ、そして最初と最後の一文にある幻燈。このことばがまたどこかゆめとうつつの境をさまようような、不思議な気持ちにさせてくれるのでした。ありていに言うと比喩と暗喩について学んだような気がする、肝心の授業の内容は覚えていないけれど、こどものころに触れた文章のうつくしさはずっと残りますね。
やまなし
宮澤 賢治(作) 小林 敏也(画)
いますぐ読みたくなった方は青空文庫のこちらからすぐに川底へ出かけられます。
ところでクラムボンの解釈について書かれた本を読んでみたいと思い、
作品件名:やまなしで検索してみると、意外と少ないことにおどろきました。Web上でも様々な議論が交わされていて奥深いです。
解釈は今回も先送りに、作品から受ける印象をそのままに、また味わいたいです。