こどもの頃、動物が出てくるおはなしが好きでした。
とくに好きだったのがこの本。
こすずめのぼうけん ルース・エインズワース作(福音館書店)
日も沈み、辺りは暗くなって、なのにからだはくたくた。あまりの心細さに、自分も消えてしまいそうだと思ったとき、親すずめが迎えにきてくれたときの安堵感ときたら。一瞬でぽっとあたたかい火が心に灯るようなぬくもりに、思わずほろりとしてしまうような、深い愛情を感じました。絵本の最後のページがとくにお気に入りです。
その後、もう少しだけ大人になった学生時代。強く印象に残っているのがこちらです。
アルジャーノンに花束を ダニエル・キイス著(早川書房)
幾度藻も版を重ね、日本でも何度かドラマ化もされて有名ですが、当時自分にとってとても衝撃的な内容でした。
この作品は一人称で報告書という形で文章が書かれています。
文字という媒体ならでは、とりわけひらがなと漢字のある日本語訳だからこそ、より一層視覚的に迫ってくるものがあります。ストーリーも書面の構成にもとにかく打ちのめされました。
唯一のともだちであるネズミのアルジャーノンの知能が、やがて衰えていき、それがいずれ自分にも訪れる未来なのだとチャーリーは悟ります。最後の一文が、物語を象徴していて、どうか自分のことも忘れずにいてほしいという思いが込められているようで胸を打たれずにはいられません。
原作が発表された当時は、戦争の影響で精神障害の人たちが増えた時期で、治療のために実際に脳の外科手術が広く行われた時代背景があることを後に知りました。
知能が高いことが人間を人間たらしめる指標ではなく、パン屋で働く博愛の心を持ったチャーリーも私たちとなにも変わらない。様々なことが胸中を巡る作品です。