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2025年2月21日

今日は誰の誕生日? レーモン・クノー

毎日、誰かしらが誕生日を迎えています。誕生日おめでとう!
ということで、新企画「今日は誰の誕生日?」の2回目をお届けします。
本日2月21日は、フランスの作家、レーモン・クノー(Raymond Queneau)の誕生日です。

クノーは、1903年生まれ。日本では何といっても映画「地下鉄のザジ」の原作者として有名ですが、彼の活動は多岐にわたります。シュールレアリスム運動に参加し、フランスの名門出版社ガリマールの編集委員をつとめ、ウリポ(ポテンシャル文学工房)という文学実験集団でも活動しました。

実験的な文学とは...? たとえばクノーの代表作に「文体練習」があります。まず最初に短いエピソードが示されます。バスの中で隣の客と口論する若い男を見かけた。2時間後にサン・ラザール駅前の広場で、その男をまた見かけた。連れの男がいて「君のコートにはもうひとつボタンがいるね」と言っているのが聞こえた。という、それだけ? というものです。

これを99通りに書き換えるのがクノーの文体練習です。集英社世界文学大事典によれば、オード、ソネットのような詩のスタイル、逡巡(しゆんじゆん)体、夢想体、怪奇体、不器用体、公式書面ほかの多様なスタイル、さらには日本の短歌の様式まで採用されているとのこと。実際に読んでみると、原型はどこに...? と感じるものもありましたが、音楽でいう「主題と変奏曲」だとすれば、第99変奏までつくるのだから、そうもなるでしょう。

もうひとつ、超実験的な作品(=本)をご紹介します。これは電子書籍にはできない、オブジェとして意味のある書物です。

「100000000000000の詩篇」
(ヒャクチョウ/ノ/シヘン)

TRC MARCの内容紹介文では以下のとおり。
「南米の風景や、詩作と言語についての考察、死についての強迫観念などを詠んだ10篇のソネットの各句を切り離し、それぞれを組み合わせることで10の14乗、すなわち100兆の詩篇が生成される詩集。切り込み線あり。」
31ページの本で、100兆の詩篇ってどうして? 切り込み線ってどういうこと? 

ソネットは14行で構成される詩型です。その一行一行を切り離して、1番目の詩の一行目に、2番目の詩の2行目以下をつづけることが可能なつくりになっています。3行目は7番目の詩、とか最後の行はまた1番目の詩にもどるとか、自在な組み合わせで、理論的には10の14乗=100兆ものソネットをつくれるというわけです。
クノー1DSC_0285.JPG
この薄い縦長の本のもつ膨大な可能性にふるえつつ、ハサミを入れてみました。(私物ですもちろん)

クノー2DSC_0286.JPG
こういうことです。パズルのような、機械的につくる不条理な一人連句というか。
そして2500円のご本に切り込みを入れるというドキドキも...。
読者にそんな体験をさせる、マジカルな作家です。

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