2012年のNHKの大河ドラマは「平清盛」。これにちなんで平清盛の伝記、同時代史など関連本が多数刊行されていますが、この時代を描いた代表的な文学作品、「平家物語」がらみのものもいろいろあるようです。
この「平家物語」、私が原文を通読したのは学生時代、日本文学を専攻し、その中の中世文学の講義で取り上げられたからでした。でも、それより前に部分的に原文を読んで、登場人物のあるお方に強く引かれたことがあったのです。
中世軍記文学の研究で著名な梶原正昭先生が、NHKで「平家物語」について講義される番組があり、その中で、木曾義仲の最期の一節が取り上げられました。
ここに、義仲の乳母子で側近の今井四郎兼平という武将が登場します。彼は、負け戦で気弱になった義仲を励ましつつ奮戦しますが、義仲は討ち取られてしまいます。これを知った兼平は、敵軍のただ中で、「今は誰をかばはんとて、軍(いくさ)をばすべき。これ見給へ、東国の殿ばら。日本一の剛の者の、自害する手本よ」(引用は手元の角川文庫より。書影は同じ校注者の角川ソフィア文庫)と言って、太刀の先を口に含んで、馬からさかさまに飛び落ち、「貫かつてぞ失せにける」という壮絶な最期を遂げるのです。
この一節この場面でのこの言葉に、ともかく一目惚れしてしまいました。たぶん、今「歴女」といわれるような方々が、戦国武将や新選組の隊士に「萌え」を感じるのと同じような気持ちだったかな、とも思います。
それから「平家物語」全巻を通読するまでには間があったのですが、この時の講義で課されたレポートでは、今井四郎兼平を取り上げ、思いのたけを込めたのでした。
「平家物語」は登場人物が多く、かつ、バラエティーに富んでいます。主要な人物に限らず、誰かしら心引かれる人物を見つけられるのではないでしょうか。
できれば原文(「源氏物語」と比べるとずっと読みやすいのでは)を味わっていただきたいです。