「一」とあっても(和装本の巻冊次(2))~ASで作成するデータについて~
こんにちは。データ部AS・伊藤です。主に和装本を担当しています。
前回、和装本の巻冊次に見られるさまざまな文字の組み合わせについて見てきました。もっとも、それらは多分にリクツ上のことで、実際にはいろいろなパターンが出現します。
たとえば、手元に「坤冊」とあるので、ではこれは「乾坤」の片割れで(ちなみに「乾坤」とは「天地」の意味)2冊セットの一部だと思いきや、実際には「乾冊之上」「「乾冊之下」「坤冊」の3冊セットだった、などということがままあります。
ちなみにこの「之」、現代書では「~のなかの~」という、下位の階層を示す用法で用いられると思いますが、古書では別の用法で用いられることがありますので、注意が必要です。すなわち、「二之四」とあったら、「二」のなかの第4番目の冊ということを表す場合のほか、「2から4まで」ということを表す場合があります。ちょうど現代書の「~」に相当するわけですね。この用法は結構しばしば見られるので、知っておいて損はありません。
前回、『千字文』について書きましたが、そのように使用されている漢字が重複しなければいいので、巻冊次として漢詩の一部や全句が用いられることも時々あります。わたしがかつて目録データを作成したことがある『經訓堂叢書』という漢籍の20冊のセットでは、巻冊次にあたるものが「白・日・依・山・尽・黄・河・入・海・流・欲・窮・千・里・目・更・上・一・層・楼」となっていました。これは唐の王之渙(おう・しかん)という人の「登鸛鵲楼(鸛鵲楼(かんじゃくろう)に登る)」というたいへん有名な五言絶句を用いたものです(昔、教科書にも載っていた気がします)。
しかしながら、著名な詩とはいえ、なぜこの詩句を使ったのやら。第18番目を見てください。巻冊次「一」ですよ。揃いになっていればいいですが、もしこの冊だけ残されていたとしたら、第1番目の冊と勘違いしてしまうことでしょう(17番目も「上」なので、もしこの2冊だけが残されていたら、わけがわからないですね)。
和装本のセットものの中味の順番を正しく判断するのは、そもそも本の外がわに巻冊次の表記がなかったり、題簽が間違って貼られていたりすることもよくあることですので、知識・経験がないと結構むつかしいことなのです。