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のろのろ歩け

ここ7年間の読書記録を調べてみた。同一作家で4冊読んでいたのは小説では恩田陸、近藤史恵、そして中島京子と3人とも女性作家だった。そのうち中島京子作品について書いてみたい。「ツアー1989」が最初だった。そして直木賞受賞作「小さいおうち」「眺望絶佳」と続いて、最近読んだのは「のろのろ歩け」だ。「ツアー1989」が面白かったから他の作品も読むようになったのだが「のろのろ歩け」も似た作品だった。傑作ということでは「小さいおうち」、タイムリーということでは「眺望絶佳」なのだが、「のろのろ歩け」について、また関連して「ツアー1989」について、書くことにする。

「のろのろ歩け」は中国語の「慢慢走」という挨拶言葉のことらしい。中篇3作品の最初の「北京の春の白い服」に出てくる。そして2作目は上海が舞台の「時間の向こうの一週間」で、最後は台湾が舞台の「天燈幸福」である。つまり「のろのろ歩け」は総合タイトルなのだ。3作品は順番が違って『オール讀物』に2010年、2012年、2011年に掲載されたのだから最初から「のろのろ歩け」という作品が構想されていたかは不明だ。

「ツアー」も「眺望絶佳」も作品集というよりあきらかに連作だった。今回も同じ主題を三通りの作品にしてみましたというところだと思う。主人公は3作品とも日本人女性、彼女たちは出張、引越、旅行とそれぞれ異なる目的で中国へ台湾へやってきた。そして旅先での男性との出会いがある。では恋愛小説だろうか。そうではない。旅行小説である。

「ツアー1989」まさにそうだった。「タイトルの意味は1989年の香港ツアーということである。このツアーでひとりの青年が香港に置き去りにされた。その青年の手紙が15年後に片思いだった主婦の元に届くのが最初の「迷子つきツアー」である。そして語り手を変えながら全体の話が進んで行く。89年から15年というのは04年であり本書の掲載が『すばる』で始まったのが05年1月号である。だからこの小説は現在とそれまでの15年間を問いかけているのである。」と当時、書いている。

では何の15年間を問いかけたのだろうか。読みかけだが香港の作家董啓章の小説集「地図集」という本がある。この本の共訳者は中島京子なのである。中島京子が董啓章と知り合いぜひ翻訳したいと思ったのが「地図集」だった。テーマはずばり香港の歴史、それはポストコロニアリズム文学になっている。アイデンティティの探求、私達がそれを意識するのがまさに海外旅行に行ったときではないだろうか。

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