はじめてまともにやなせたかしさんの作品を見たのは、大人になってからでした。通りすがりの博物館で偶然ひらかれていた「やなせたかし展」を冷やかしで覗いたのです。
カラフルなアンパンマンたちの直筆画に、「色のセンスがオシャレ!」と思い、生き生きとしたタッチがすてきだと思い、そして「やさしいライオン」と「チリンのすず」のお話に、その場で涙が...。(なんというかものすごいお話でした)元気さから、せつなさ暗さまで、懐の深さに驚きました。
そして、もうひとつ凄いと思うのが、作詞です。震災後にたくさん聴かれたという「アンパンマンのマーチ」や、「手のひらを太陽に」。問答無用で励ましてくれる、あの歌詞の力強さはどこから来るのでしょう。
先日、お医者さんの待合室で、隣り合ったおばあさんとアンパンマン談義になり、「アンパンマンは、強くて、自分の顔を食べさせるヒーローなんですよ」みたいなことを教えたら、感じいった風でこんなことを言われました。
「この間、ご近所の子どもたちがジャンケンをした時に「最初はグー、正義がいつも勝つわけじゃない! ジャンケンポン!」って言ってたのよ!今どきの子はどうしちゃったのかしら。アンパンマンみたいなのが好きだったら良いのに!」
私はひねくれているので、正義が常に勝つわけじゃない~みたいな話にも良いものはたくさんあるよな、と思うのですが、おばあさんの気持ちもよくわかりました。で、容赦なく優しいヒーローアンパンマンは良いな、それが大好きな子どもたちも良いな、と思った次第です。
先月のやなせたかしさんの訃報に接し、とても寂しく思いました。でも、先生の子ども「アンパンマン」は、もう不滅の存在ではないでしょうか。私もこれから少しずつ、やなせ先生の作品に出合って、元気をもらっていきたいと思います。
11月末には豪華作品集「やなせたかし大全」が刊行されるようです。
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