今年1月のデータ部ログで、新しい件名「3Dプリンタ」を作ったことをお知らせしましたが、覚えている方はいらっしゃるでしょうか(記事はこちら)。
1月に件名を新設したあとも、毎月数冊、3Dプリンタの本が出版されています。それらの中に、世界に250か所ある「Fablab(ファブラボ)」(=個人が3Dプリンタやレーザーカッター等を自由に利用できる工房)を日本に設立した田中浩也氏(慶應義塾大学准教授)の新刊があります。
講談社現代新書(2014.5)
先月20日、千代田区立日比谷図書文化館で、その田中浩也氏と芥川賞作家・平野啓一郎氏による、花の同級生異色コラボ対談「未来のモノづくり-3Dプリンタから始まる次の社会」(主催:千代田区立日比谷図書文化館)というイベントがありました。
インターネットが社会インフラとなり、ネット上で人と人がつながる「ソーシャルネットワーク」が生まれた現代。田中氏は、3Dプリンタをはじめとするデジタル工作機械の登場により、画面上のデジタルデータだけでなく、3次元の「物質データ」をもやりとりする新しいネットワーク社会が迫っていると指摘しています。
といっても、ピンとこない方が多いかもしれません。
たとえば田中氏は、東日本大震災後、海外に住む友人から、「汚染水の水質検査に使えるDIY顕微鏡キットのデータをつくったのでデータを送るから物質化して試してみてほしい」といった内容のメールを受け取ったそうです。そこで田中氏は、送られてきたデータをもとに、デジタル工作機械を使って部品をつくり、ウェブカメラなどを取り付け、顕微鏡を完成させたというのです。それ以来、こうした「モノの送受信」は、田中氏の日常になっているそうです。
どうでしょうか?情報だけを送るのでも、物そのものを送るのでもない、情報と物質が混ざり合った社会の姿が少しイメージできたでしょうか?
今回のイベントでは、スミソニアン博物館が収蔵品の3Dデータを無料配布していること、自社の部品の3Dデータを公開しているメーカーがあること、3Dプリンタで作られた医療用ギブスが登場していることなど、興味深い事例がたくさん紹介されていました。
また、あるスリッパのデザインデータがオープンソース化されたことで、そのスリッパが世界各地で、それぞれの地域の素材を使ってアレンジされているエピソードなどもありました。
「大量生産・大量消費・大量廃棄」の現代では、ものを「つくる人」と「つかう人」が分断されてきましたが、3Dプリンタなどのデジタル工作機械によって、自分が欲しいものを自分でつくることができるようになります。そして、自分でものをつくることは、実は「自分」をつくることにつながっていくと、田中氏は言います。
特に今回は、対談相手が京都大学の同級生(バンド仲間だったそう!)である平野啓一郎氏だったこともあり、ただの3Dプリンタ論ではなく、本質的な次世代社会論にもなっていたように思います。場内からも多くの質問があがり、とても刺激的な2時間でした。
ちなみに、今回のイベントに合わせて、日比谷図書文化館2階ホールには同館の所蔵データベースで調べた3Dプリンタの記事が展示されていました。
すでにアメリカには、3Dプリンタを設置している公共図書館があるそうですし、日本でも慶應義塾大学SFCの図書館に設置されています(田中氏のお話によると、学生たちは積極的に3Dプリンタを活用しているそうです)。
ものづくりの拠点としての図書館、そんな新しい姿がリアルに見えてきたのではないでしょうか。
(※写真は千代田区立日比谷図書文化館の許可を得て掲載しています)