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2017年7月 7日 アーカイブ

2017年7月 7日

合刻そのほか-和漢古書の書誌作成単位(2)

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回、四書五経に代表される、セットで刊行されている図書について見ましたが、最初から『四書』『五経』といった「セットの書名」なしで、一そろいのものとして刊行される場合もあります(もっとも「四書」「五経」の場合でも、そうした「セットの書名」自体は現物のどこにも見あたらないということは珍しくありません)。こうしたものについては「合刻本(がっこくぼん)」という言い方があります。
「合刻本」は、広義にはセットの書名がある場合を含めてもよいですが、その場合はセットの書名をタイトルとする上位の書誌と書誌階層を形成するかたちになるのに対し、セットの書名がない場合は、そういう具合にはいきません。後から貼られた帙題簽から親書誌の書名を採用したり、目録作成者が仮のセット書名をつけたりすることはもちろんありうるでしょうが、あまり恣意的にやりすぎるのも考えものです(ちなみに、『日本古典籍総合目録データベース』などでは、こうした場合「書名なし」という仮想の親書誌を作って階層構造化しています)。
もちろん、物理的に1冊になっている「合刻本」は、「合集」として1書誌でデータを作ることになるでしょうが、全5冊で最初の2冊がAという著作、あとの3冊がBという著作、などという場合、やはり書誌は別々に作成し、それぞれの書誌に、「『○○』と合刻」といった書誌的来歴の注記をして、「兄弟書誌」の存在を明記しておく、というやり方がよいかと思います。個々の巻次を記録しない冊子目録などでは、1冊の場合と同じように1書誌にしていることもよくありますが、オンラインデータベースでそれを踏襲する必要はかならずしもないでしょう。

さて、これらの合刻本ですが、四書五経などの場合と同じく、合刻の出版事項も「兄弟書誌」の最初か最後にしかない場合が多いです。ですので、合刻であることを把握できないと、いたずらに「出版事項不明」の残念な書誌が増えていくことになります。整理している中でつづけて出てくればピンときますが、間隔が空いて出てくると突き止めにくいこともあり、経験を要するところかもしれません。
四書五経に関連するもののほか、よく目にする合刻本としては、和古書では『保元物語・平治物語』『辨道・辨名』(荻生徂徠)『中華事始・大和事始』(貝原恥軒)『非徴・非物篇』(五井蘭州)『作文率・文用例證』(山本北山)などが、漢籍では『帝範・臣軌』『黄帝内經素問・黄帝内經靈樞』『圓機詩學活法全書・圓機韻學活法全書』『張子全書・周子全書』(張載(横渠)・周敦頤(濂渓))『救荒野譜・救荒本草』(王西樓・徐光啓)などがあげられます。
『老子翼・荘子翼』『李太白詩・杜工部詩集』(李白・杜甫)『柳文・韓文』(柳宗元・韓愈)なども、よく読むと合刻の序跋や目次があってそこから『老荘翼』『合刻李杜詩集』『韓柳文』などと上位階層の書名を採用することができたりもしますが、こうしたものも、刊記はたいてい、合刻のセット全体で一箇所にしかありません(なお、長澤規矩也氏に「和刻漢籍の合刻本・合印本とその處理法」(『著作集』第4巻所収)という一文があることをご紹介しておきます)。

「合刻本」は長澤氏の『図書学辞典』にも「二、三種の本が、互いに軽重の別なく、まとめて出版されたもの」とあるように、どちらがメインということがない場合を言い、これに対し、あきらかに従属的・附録的なものが本体と別のタイトルで刊行されている場合、これを「附刻本(ふこくぼん)」と称します。NACSIS-CATなどでは、おそらく「バランスしない書誌」のかたちで作成するのがもっとも適切でしょう。
よくお目にかかるものとしては、『韓非子』に附した『韓非子識誤』(顧廣圻)、『日本書紀』に附した『日本紀文字錯乱備考』(大関増業)、『春曙抄』に附した『枕草紙装束撮要抄』(壺井義知)、『伊勢物語古意』に附した『よしやあしや』(上田秋成)などがあげられます。
「附刻本」の出版事項は、メインのものとまったく同じ刊記があったり、あるいは全然別の年月の刊記があったりすることもありますが、本体と附刻あわせて刊記がどちらかの一方にしかない、ということもやはりよくあります。ですので、上記の合刻本の場合と同じく、関係する書誌があるのに「出版事項不明」で放ったままにしておかないよう、注意しなければなりません。

なお、セットものや多巻ものなどで、全体の一部分のみを抜き出して刊行したもののことを「抽刻本(ちゅうこくぼん)」と称します。『史記』列伝第45の「扁鵲倉公傳(へんじゃくそうこうでん)」を抽刻したものや、『延喜式(えんぎしき)』巻第9-10の「神名帳(じんみょうちょう)」のみを刊行したものなどがあり、こうした場合、何という本からの・どの巻の抽刻かということを注記しておかなければなりません(ちなみに、『大学』『中庸』はそれぞれもともと『礼記』の一篇なのですが、これはさすがに抽刻本とは称しません)。
なお、抽刻というのとはすこし違いますが、『日本書紀』は、全30巻で刊行したものより、最初の「神代」2巻のみを刊行したもののほうが多数派です。これについては、とくに注記はせず、書名として『日本書紀 神代2巻』と記録しておくのが適当だろうと思います。

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