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2019年3月 1日 アーカイブ

2019年3月 1日

大藏經―仏教の大叢書

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前々回前回、和漢古書のシリーズについていくつか見てきましたが、ここでもう一つ、仏教の一大叢刻であるところの『大藏經(だいぞうきょう)』について、すこし触れておきたいと思います。

『大藏經』は『一切經(いっさいきょう)』とも言い、漢訳された仏教経典とその注釈・論集等を集めた、収録部数一千部以上に及ぶ一大叢書です。中国では宋代以来、歴代王朝の皇帝の勅命により何度も刊行されており、朝鮮半島でも高麗時代に国家事業として『高麗藏(こうらいぞう)』と呼ばれるものが刊行されました(再彫本の版木が現存しています)。
日本では、天海僧正により着手されたものが慶安元年(1648)に徳川幕府の支援を受けて刊行された寛永寺版(『天海藏』)が嚆矢(こうし)となりますが、一般に広く流布したのは寛文8年(1668)から延宝・天和にわたって刊行された鉄眼版(てつげんばん)と呼ばれるものです。
これは、鉄眼道光(てつげんどうこう)というお坊さんが、明代に民間から刊行された「万暦版」をもとに翻刻したもので、版木を宇治の黄檗山万福寺に収蔵したので、「黄檗版大藏經」という呼称もあります。訓点が施されている著作も一部ありますが、版式は明の原版のものを踏襲して毎半葉十行二十字、これが現在の原稿用紙のもとになったと言われます(いわゆる明朝体もこの鉄眼版の書体によると言います)。各巻末に刊記を具えたものが多いですが、後印本・補刻本などでは埋め木されたりしていることもままあり、和漢古書の整理の現場でよく目にするのはそれらのものです(明治以降は、京都の印房武兵衛(貝葉書院)が印行を請け負っています)。
全冊揃いで保有しているところはそんなになく、離れ本として出てくることが多いですが、その場合は、現物や帙に「大藏經」と明記されていなくても、やはり「『一切經』之一」などと注記しておいたほうがよいでしょう。

明治以降も、弘教書院の『大日本校訂大藏經』(縮藏)や大藏出版の『大正新脩大藏經』(大正藏)などの活字和装本が刊行されており、とくに後者(底本は上述の再彫本『高麗藏』)は世界的にスタンダードとして利用されています。
なお、鉄眼藏や大正藏などでは、題簽や版心上部に「印度撰述」「支那撰述」「日本撰述(扶桑撰述)」といった文言がしばしばありますが、これは原著の成立地別のカテゴリーを示したものであり、別タイトルの一部として記録したりするのはあまり適当ではありません。

ちなみに、神道ではこうした一大叢書というのはありませんが、中国の道教では、やはり経典を総結集させた『道藏(どうぞう)』という叢書が編纂されています。

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