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刊印修のはなし―和漢古書の出版事項(5)

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回、和漢古書において、各種の情報源の記載はいろいろな時点のものが混在しているので注意が必要だということを書きました。そのことを踏まえて、和漢古書の目録記述をする際に理解しておかなければならない概念として「刊・印・修」というものがあります。今回はこれについて見ていきましょう。

「刊・印・修」というのは、もともと漢籍における専門用語で、「刊」とは図書の内容を版木に彫って出版すること、「印」とはその版木を使ってそのまま印刷すること、「修」とはその版木に修補を加えて印刷することを言います。たとえば、冊子目録等で、「文政十二年刊 天保三年修 明治印」とあったら、文政12年に版木が彫られ、天保3年にその版木に修訂が加えられたものを、明治に入ってから印刷した、という意味になります。
版木というものは、何度も刷っているうちに磨耗や損傷が生じますが、保存状態がよければそれ自体は数百年以上持つものです。損傷が生じたり、内容を改訂する必要が生じたりした場合は、その箇所を削り取って、新しく木を埋めこんで彫り直すことになりますが、これを「埋め木(うめき)」もしくは「入れ木(いれき)」と言います。刊行後にこうした修訂を加えて印刷することが「修」ということになりますが、刊行前の校正段階でこうした作業がなされたものについては「修」とは称しません。

「刊・印・修」はこのように図書の「刊行状況」を示す用語と言ってよいですが、注意したいのは「印刷状況」を示す語ではないということです。われわれが手にする図書は基本的に後刷りのものであることがふつうで、初刷りのものがあればそれこそ特記する必要があるくらいです。ですので、刷り面に多少のかすれや荒れがあっても、わざわざ「後印本」と記録することはありません。
「後印本」とのみ注記に記録することになるのは、基本的に、情報源にあって出版事項として記録する出版年代と、実際にその本が印刷された時期とのあいだに大きな間隔があると判断したときだけと思ってよいでしょう。もちろん、刊行者と別の印行者がある場合は、年代の開きの多少にかかわらず、その印行者の「印」ということになり、以前の刊行時の情報はすべて注記に記録することになります。

和漢古書においては、現代書の「版」editionという概念は基本的に用いませんが、NCRに準拠した目録記述においては、「刊・印・修」とは、出版事項というより、要するに刊本の書誌的来歴にかんする事項と理解してよいかと思います。すなわち、記述対象の書誌的来歴として記録すべきことがあれば、注記の該当する位置に「文化5年發行の後印」とか「據崇禎13年武林錢氏刊本重刊」(崇禎13年の武林の錢氏の刊本に拠り重刊)とか記述することになります(後者は漢籍での書きかた)。
記述にあたっては、「刊・印・修」を、上述の意味によってきちんと使い分けなければいけません。「後印」「重印」は、すでに出版された版木を使ってそのまま印行することを言いますが、「後印」と「重印」とで使い分けるひともあり、また「重印」には現代書ですこし別の意味もありますので、「後印」を使ったほうが無難かと思います。版木に手を加えて印刷した場合は、「後修」となります。
これらに対し、「重刊」「再刊」とは、すでに出版されたものをもとに、もう一度版木を彫り直して刊行することを言います。なお、「重刊」というのは「重ねて刊した」ということですから、意味からするとほんらい「ちょうかん」と読むべきで、中国語のピンイン表記でも「zhong kan」ではなく「chong kan」となりますが、日本では読みぐせとして「じゅうかん」と読むことが定着しています。「重刻」「重印」なども同様です。

重刊(重刻)のうち、もとの本を敷き写しにして復刻したものを「覆刻」(ふっこく)とか「景刊」(えいかん)とか言い、現代書で「××年○○出版社刊の複製」のように記述するのと同じように、「寶永4年出雲寺和泉掾刊の覆刻」などと記述することになります。漢籍では、「用正平19年堺浦道祐居士刊本覆刻」(正平19年の堺浦の道祐居士の刊本を用いて覆刻)とか「用日本覆宋刊本景刊」とかいったように記録します(「據」ではなく「用」を用いることに注意)。後者は、日本で宋の時代の刊本を敷き写しにして出版したものをさらに覆刻した、という意味になります。
覆刻本は、覆刻した際の出版事項や、すくなくとも覆刻であること自体くらいは、現物に明記しておいてくれればよいのですが、海賊版などの場合、もとの年記までかぶせ彫りしていることもあり、こうなってしまうとお手上げです。結果としてまったく同じ出版事項の記述になってしまう別版の書物が存在してしまうわけで、こうしたものについては、現物や画像を並べて比べて見る以外、最終的にはどうにもしようがないのですが、通常の整理ではそこまで突き止めるのはなかなかむつかしいでしょう。

覆刻ではない重刊本、すなわち、一度出版されたものをもう一度版木を彫り直して出版したというだけで敷き写しとかではないものについては、現代でも使う言葉ですが、「翻刻」(ほんこく)と称します。中国語では同音になるので、「反刻」「繙刻」といった表記も時々目にします。和漢古書では、とくに中国で出版されたものを日本で出版したものについて使うことが多く、「康煕60年序刊の翻刻」といった具合に注記に記録することになります(「翻刻」という記述については、まだ触れておくべきこともあるのですが、これはまたいずれ)。

コメント (4)

目録迷子:

いつも迷いが出たときはこのブログを参考にさせていただいております。

例えばなのですが、こちらの早稲田大学蔵のものの場合(https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/i17/i17_00294/index.html)、

1.「前川源七郎 : 柳原喜兵衛 , 安政2[1855]」
としている書誌と

2.「河内屋喜兵衛 , 安政2の後印」
としている館とがあるようです。

刊記の柳原喜兵衛と奥付の一番左の河内屋喜兵衛は同じ人物のようなのですが(「近世書林板元総覧(改訂増補)」を参照しました)、この場合1と2どちらが適切なのでしょうか。

AS 伊藤:

目録迷子さま、コメントありがとうございます。

ご質問の件ですが、当該の書物で「發行書林」の奥付がついていない場合もあると思われ、その場合はもちろん1.の記述になります。
奥付がついているのは、その安政2年の再刻本を後刷りした際に新たに奥付をつけたということと考えられますので、2.の「安政2の後印」というほうが適切です。
ただし、出版者を「河内屋喜兵衛」のみにしているのは
http://datablog.trc.co.jp/2016/08/26180413.html
に書いたとおり、奥付の最後の書肆を代表者として選んで記録しているものと思われますが、そこでも書いたように、できれば全員を記録したほうがよいと思います。

早稲田大学『古典籍データベース』の記述が
----------------------
前川源七郎, 安政2[1855]
共同刊行:柳原喜兵衛(浪速)ほか
----------------------
となっているのは、「發行書林」の書肆を、安政2年の再刻の際の「出版者と別の発売者」と見なしたということかもしれませんが、安政2年の前川・柳原両書肆が共同で刊行した本を、後になって柳原氏ほか(書かれているように「柳原喜兵衛」=「河内屋喜兵衛」です)が共同で印行したとする方が素直かと思います。
印行年は明記されていませんが、「東京」と改刻されたりしていないので、明治に入ってからではなく安政~慶應の間の刷りと見られます(もちろん安政2年のうちである可能性もあります)。また奥付の河内屋以外の書肆は、上記記事で触れたとおり「出版そのものにはかかわっておらず、たんに流通販売で提携しているだけ」という可能性も高そうです。
なお、
http://datablog.trc.co.jp/2022/08/29152713.html
で書いたとおり、まったく無関係の本の奥付をくっつけているといった場合も無くはなく、その場合は奥付を無視して、出版事項としては1.のように記述するほうが適切ということになります。

目録迷子:

伊藤様

わかりやすい解説をありがとうございます。
今回のように公開されている画像がある場合、画像と書誌情報を照らし合わせて、どのように判断したのだろうかと疑問に思うことがたまにありました。十分な知識を持ち合わせていないので、情報源を素直に整理し過不足なく記述していきたいと思います。

なお、奥付に「書林 〇〇」というように"発行"の記述がない場合でも同様に考えるのが一番素直でしょうか。

"奥付を使いまわす話(上級編)―和漢古書の奥付(補遺2)"も改めて参照しました。やはり全体をしっかり見ないといけないなと実感します・・・

AS 伊藤:

目録迷子さま、コメントありがとうございます。

「奥付に「書林 〇〇」というように"発行"の記述がない場合」でも、とくにそれで意味あいが違ってくることはありませんので、同様に考えるのが適切です。

ちなみに、出版者=「河内屋喜兵衛 菱屋藤兵衛 永楽屋東四郎 吉野屋仁兵衛 英屋大助 和泉屋吉兵衛 岡村庄助 和泉屋金右衛門 岡田屋嘉七 山城屋佐兵衛 須原屋伊八 須原屋茂兵衛」でCiNiiを検索してみたところ、30数件ヒットしました。全部ではないにせよ、http://datablog.trc.co.jp/2022/08/26162418.html
で書いたとおり、多くが同じ奥付の使いまわしではないかと思われます。

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