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版式の記録(和漢古書の形態注記(2))

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回触れなかったNCRの「形態に関する注記」の「キ)版式,版面」には「匡廓,界線,行数,字数,版心について,説明する必要があるときは注記する。」とあります。あまり見慣れない用語が並んでいますが、順番に見ていきましょう。
まずおさえておきたいのは「版面」という文字のとおり、これらは基本的に、写本ではなく、刊本(版本)においてのみ使われる用語だということです。このタームは現代のDTPの世界では「はんづら」とも読むようですが、和漢古書の世界ではふつう「はんめん」と称します。もともとは「版木の表面」のことなのでしょうが、一般には印刷された紙の印刷エリアのことを指し、その様式・形式のことを「版式(はんしき)」と言います。
「匡廓(きょうかく)」は本文を取り囲む四周の枠のことを言い、現代書ではそうした枠はないのがふつうですが、和漢古書の刊本ではむしろ無枠のもののほうが少数派です。この枠は二重線である場合と一本線である場合とがあり、前者を「双辺」、後者を「単辺」と称します。基本的に、すべて双辺あるいは単辺である場合と、上下が単辺で左右が双辺である場合との計3つのパターンがあり、それぞれ「四周双辺」「四周単辺」「左右双辺」と称します。上下が二重で左右が一重というのは非常に稀にしかありませんが、「上下双辺」とか「天地双辺」とか呼びます。
「界線(かいせん)」は行と行との間の罫線のことを指す用語で、罫線が印刷されているものを「有界」、印刷されていないものを「無界」と言います。
「行数」は1ページ(すなわち半丁)あたりの行数のことで、「字数」は1行あたりの字数のことを指します。ですので正式には「毎半葉12行毎行20字」のように書きますが、ふつうは匡廓・界線につづけて簡潔に「左右双辺有界12行20字」のように本文の版式を記録します。なお行数・字数はふつう一定ですが、多少増減がある場合は「19-21字」とか「不定字」とかいう具合に書きます。
「版心」は以前説明したとおり、もとの紙の中央に位置する「柱」のことですが、ここの印刷面も和漢古書独自の様式があります。まず最も特徴的なものとして、現代の原稿用紙にも残っていますが、中央部に一つもしくは二つ、「【」のようなデザインというか模様が入っていることがよくあります。これを形状が魚の尾びれに似ているということで「魚尾(ぎょび)」と呼び、二つある場合を「双魚尾」、一つの場合を「単魚尾」、魚尾が無い場合を「無魚尾」として記録します。
魚尾はたいてい黒塗りに刷られていますが、白抜きになっている「白魚尾」や、黒塗りの中にいくつか花びらのような白抜きが施されている「花口魚尾(かこうぎょび)」といったものもあります。また、双魚尾はたいていは向かい合わせに彫られていますが、上下とも下を向いているような場合もたまにあります。
版心において、ほかにバラエティがあるポイントとして、版心上部が白く刷られているか黒く刷られているか、ということがあります。白いのを「白口(はっこう)」、黒いのを「黒口(こっこう)」と言い、後者はさらに全部が黒い「大黒口」、黒い部分が半分以下の幅の「小黒口」、線状の「線黒口」に分けられます(もっとも、基準は多少あいまいです)。
版心については、基本的には魚尾の数(「双魚尾」「単魚尾」「無魚尾」)を書けばよいですが、もちろんさらに詳細に上記のようなことを記録することもできます。

NCRには書かれていませんが、版面の記述でもう一つ、「内匡廓の大きさ」という事項があります。これは「匡廓の内がわ」のタテヨコを計測した大きさのことで、前々回見たように図書の外形の大きさが和漢古書の場合厳密なものではないのに対し、同じ版木から刷った場合は、基本的に同じ大きさになりますので、こちらはミリ単位まで計測する意味があると言えます。ふつうは、本文巻頭の半丁(オモテ面)の匡廓の内がわ(左は版心まで)を測り、「内匡廓:16.6×12.2cm」のように記録します。
「内匡廓の大きさ」は、刷りが重ねられるにつれ広がっていくものだと言いますので、詳細に記録しておくことが重要だと、専門書にはよく書かれています。もっとも、大沼晴暉氏によれば、「版木は(略)冬場と夏場とで伸縮率も異り、まして墨をつけたり乾かしたり、また洗ったりするので初印と後印とで常に一定の大きさである訳ではない。また用紙自体も湿度により伸び縮みし(略)、紙を漉いた日の天候によっても左右される(略)。こうした個々の条件から同版本でも数ミリの違いは生れてくるのである」(『図書大概』2012刊p174)ということであり、これだけを刷次や覆刻の決定的な証拠とするのは慎重であったほうがよいだろうと思いますし、結局は現物あるいは画像どうしを見比べて、トータルから判断を下すしかないのだろうと思います。

版式の記録はもともと漢籍のほうでの習慣であり、和書のお堅い本でも記録するとしても、かな交じりのものは、活字本以外の場合は「字数」は省いてよいと思います。また和書では無辺無界・無魚尾というものも多く―漢籍でもむろんありはしますが―、そういうのを一々そのように記録するのもあまり意味がありません(なお、こうしたものの場合、「内匡廓の大きさ」の代わりに「字高」を記録している目録もあります)。
また、写本の場合は原則として記録されないわけですが、枠が印刷された罫紙や無罫紙を使用している場合、その版式を記録しておくこともあってもよいかとは思います。もっともこの場合、重要なのはむしろ(あった場合ですが)柱に印字されている文字のほうであり、「柱に「○○堂」とある藍罫紙を使用」などと記録しておいたほうがよいでしょう。

版式の記録は、いかにも専門的なタームが並んでいますので一見むつかしそうに見えますが、基本的にパターン化されますので、覚えてしまえば初心者でもあまり考えずに入力できます。逆に言えば、版式の記述が詳細な、いかにも立派な書誌のように見えても、責任表示や出版事項がいいかげんな内容のものも、残念ながら結構目にしますので、注意したいところです。いずれにしろ、版面・版式については、文字で詳細に至るまで記述することにエネルギーを費やすよりも、画像をつけるほうがはるかに効果的でしょう(もちろん、画像があった上で正確な版式の記述があれば言うことなしですが)。

コメント (12)

目録迷子:

いつも参考にさせていただいております。


序やその他本文以外すべて版式が統一されていて、序はすべての行が下2字空欄、本文はすべて上2字空欄の場合、空欄に文字があるていで字数をカウント(本文字数+2字と序+2字は同じ字数になる)しておりますが、合っていますでしょうか?

これまでどこかには1行フルで文字があるものばかりだったので不安に思えてきました。

よろしくお願いいたします。

AS 伊藤:

目録迷子さん、コメントありがとうございます。

この場合の字数のカウントについては、
「空欄に文字があるていで」カウントするのでOKです。

序やその他本文以外すべて版式が統一されているという
状況だということなのでこれで結構ですが、
序跋と本文とでは版式が違っていることが多いです。
もちろん、基本的に本文の版式のみを記録します。

目録迷子:

ご回答ありがとうございます。

序がいくつもあってそれらが各々版式が異なっている場合にいちいち版式を記録するのは・・・と思っていたのでこちら参考になりました。

必要事項を記録し、不要な事項を書かないシンプルできちんとした書誌を作成したいのですが、なかなか難しいです。

ありがとうございました。

データ部ログ管理者:

10月30日に目録迷子さんから頂戴しましたコメントを誤って削除してしまいました。大変申し訳ありません!目録迷子さん、いつもデータ部ログをご覧いただきありがとうございます。コメント再掲させていただきます。今後このようなことのないように充分気を付けてまいります。
                   データ部ログ管理者

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いつも参考にしております。
魚尾について質問があります。

>>版心については、基本的には魚尾の数(「双魚尾」「単魚尾」「無魚尾」)を書け
ばよい

当方はこれにプラスして白か黒か、そのある場所はどうなっているか(双魚尾の場合
上が黒、下が白など)は記録することとなりました。
ここで、線魚尾はどうするか?問題が出てまいりまして、個人的には線魚尾は白魚尾
の中に含まれると思いますので、白魚尾と記録すれば良いと考えているのですが、誤
解を招く書き方となってしまうでしょうか。

魚尾の数>黒いか白いか>場所(双魚尾の場合上が黒、下が白など)>もっと細かいと
ころ(線魚尾など)

といった感じの考えなのですが、いかがでしょうか。
コメントいただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。

投稿者: 目録迷子 | 2020年10月30日

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目録迷子さん、コメントありがとうございます。

「線魚尾」はあまり使われない用語ですが、白魚尾で上下と区切る横線が無い場合(下向きの場合だと、|⊼|ではなく|∧|のようになっているもの)のことということでよろしいでしょうか。であれば、
>白魚尾の中に含まれる
ということでよいですので、
>白魚尾と記録すれば良い
と思います。

「魚尾の数>黒いか白いか」は、双黒魚尾、双花口魚尾、単白魚尾といった具合に書きます。「上黒魚尾」といった記録の仕方もありますが、単魚尾の場合、上がわにあるのがデフォルトなので、「双」と対照させるなら「単」のほうがよいかと思います。
双魚尾の場合で上が黒、下が白などといったケースはほとんどないと思いますが、むしろ時々あるのは、双魚尾だが向かい合うかたちになっておらず両方とも下向きといった場合で、「双下向黒魚尾」といったぐあいに記録します。

いずれにしろ、こうでなければいけないと決まっているわけではありませんので、貴館のなかで統一がとれていればそれでよいと思います。ほかでも書きましたが、こうしたことを細かいところまで文言で表現しようというのは、やはり自ずから限界があります。

投稿者: AS 伊藤 | 2020年11月2日

目録迷子:

伊藤様

詳細な回答、ありがとうございます。
過不足なくなるべくシンプルな書誌データにできるよう心がけておりますが、迷いがあったので質問させていただき、参考になりました。

ありがとうございました。

AS伊藤:

目録迷子さん、コメントありがとうございました。

今後も何かありましたら、どうぞコメントをお寄せください。

ちなみに今日チェックした資料では、版心の下がわに下向きの単黒魚尾がありました。「上がわにあるのがデフォルト」とも言えないかもしれません。

目録迷子:

伊藤様

いつもこちらのブログと書籍を参考にさせていただいております。
版式で、本文の字数は「空欄に文字があるていで」と教えていただきましたが、注文双行の文字数も同じでしょうか?

双行部分がすべて1字下りの典籍について、空欄に文字があるていで記しているなと思うものと、そうでないものとあるなと思いぼんやり疑問に感じておりました。教えていただけると嬉しいです。

AS伊藤:

目録迷子さん、コメントありがとうございました。

「注文双行の文字数も同じでしょうか?」とのことですが、基本的に「○行○字注文双行」というのは、本文の行数・文字数のみをカウントし、その上で割注がある、ということを示すだけの文言です。
それぞれの文字の字高は大字でも双行になっている小字でも同じになっていることも多く、小字注文の文字数をカウントするということは基本的に不要です。

もちろん、時々は1行あたりの文字数が大字と小字とで違っていることはあり、その場合、注文の文字数をカウントするのであれば、小字が「すべて1字下り」のものは、その1字分は数えなくてよいような気はしますが、たぶん数えるとする人もいるかもしれません。
どちらかに明確に定まっているというわけではないと思われます。
(確定的に決まってはいなさそうということが、割注があることを示していればそれでじゅうぶんである、ということをまさしく示している、とも言えそうです)。

なお、字書や語釈のようなもので、小字の部分がメインで文中のところどころに大字が配されている、といったものもありますが、こうしたものは「四周双辺無界小字14行20字、単魚尾」といった具合に書いておけば、小字2行分の大字がところどころに配されているのだなということが自ずと了解されます。

書誌子:

諸々お教えいただきありがとうございます。
 明治の事務用箋を用いられている文書ですが、
罫線が朱色の場合、目録にはどのように記載したら
良いのでしょうか。
例えば、「四周双辺有界〇行〇字」だけで良いので
しょうか。
 

匿名:

大変参考になります。

 明治の事務用箋で朱色の罫線がある用紙を
使用した文書を目録に記載する場合ですが、
例えば「四周双辺有界〇行〇字」のような
記載で、色については特に記すことはしないで
良いのでしょうか。
 お教えいただければ幸いです。

データ部ログ管理者:

書誌子さま、コメントありがとうございます。

版式の記録は原則として刊本にのみ行いますが、本文中に書いたとおり、用箋の版式を記録したいということであればそうしても別にかまいません。色については、ですので特に規定はありませんが、記録したいということであれば、
四周双辺有界〇行、単魚尾(朱罫紙) とか
柱に「○○堂」とある藍罫紙を使用(四周双辺有界〇行、単魚尾) とか
お好きなように、わかりやすく簡潔に記録していただければと思います。

なお、字数を記録するのは、本文に書いたとおり、基本的にすべて漢字による本あるいは活字本の場合だけです。ですので、書写資料の場合、そうしたものを敷き写しにしている、もしくは原稿用紙のように横罫が入っている用箋を用いているということでなければ、字数の記録は不要です。
(AS伊藤)

書誌子:

 伊藤様

 ご多忙のところ、早速にお教えくださり、まことに
ありがとうございます。
 大変ご親切に解説していただき、良く理解することが
できました。
 心より御礼申し上げます。

 また何か不明な点がありましたら、お尋ねさせて
いただくかと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

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