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どんな色?どんな模様?(和漢古書の形態注記(1))

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前々回前回、形態事項について見てきましたが、今回から注記事項を見ていこうと思います。
和漢古書の注記事項はNCR87R3では、現代書とは別立てでまとめられています。もちろん、これはこれで見やすいのですが、であるならばなぜ、書名から形態にいたるまでの事項でもそのようにしなかったのか、ちょっと不思議です。洋書のAACRでは、初期刊本についてそのように全体を別立てにしていたのに、現状のNCRのように混在しているのは、やはりどうしたって見やすくはないでしょう。
また、この2.7.4(古)の注記事項自体で見ると、FRBRで言うところの「アイテム」レベルに対応する注記と「体現形」レベルに対応する注記とが混在している、ということが言えます。和漢古書は基本的にアイテムレベルで書誌を作成するのだから、ということかもしれませんが、洋古書についての『稀覯書の書誌記述』(一橋大学社会科学古典資料センター1986)に書かれているように、「記述対象のコピーの重要であると考えられる特異性,もしくは不完全さ」についての注記は、「ある版のうちのすべてのコピーについて当てはまる情報を記録した別の注記とを注意深く区別する」必要があるということは、和古書・漢籍でも、当然同じはずだったろうと思います。
また、和漢古書の整理にあたっては、もともと、現物の状況を専用のデータシートに頭から記録していく方法が広く使われているのですが、そのデータシートでの記載方法が部分的に反映されている結果、NCRの規定全体とやや整合性がとれていない部分があるように思いますし、ほかにもいくつか疑問な点はあります。すくなくとも、現行のNCRの注記の順番は、後述のように、必ずしも適切とは言えないように思います。

タイトル・責任表示・書誌的来歴・出版事項にかんする注記については、それぞれの事項について見てきた際に触れていますので、ここではくりかえしません。2.7.4.5(古)の形態に関する注記のア)からオ)についても、現代書と変わりません。ただ、イ)について、カラーかどうかの情報はできるだけ入れておきたいところです。
木版本の場合、中の図版が多色刷りであればそれは重要な特徴ですので、かならず「多色刷り」と注記したほうがよいでしょう。ただ、表紙や見返しのみがカラーのものについては基本的に注記不要でしょう。黒のほか一色しか使われていなければ「二色刷り」となります。薄墨の場合は色刷りとは言いにくいように思いますが、見解はわかれるかもしれません。
きちんと見分けなければならないのは、判別がむつかしいこともあるのですが、色刷りではなく筆による彩色でないかどうかです。後者の場合や、写本で着彩がある場合には、「筆彩あり」とか「彩色図版」とか注記することになります。
なお、漢籍では多色刷りの本のことを「套印本(とういんぼん)」と言い、図版だけに限らず、後人の注釈が別々の色で印字されているようなものもあります。こういったものも「○色套印本」などと称し、清朝後期の広東省の刊本(粤刊本(えつかんほん))にその例が多く見られます。なお、すべて黒以外で印字されている朱印本・藍印本といったものもあります。
また、書道手本などで白黒(陰陽)が反転しているもの、すなわち版木の文字のまわりを彫るのではなく、文字のほうを彫り込んだものがよくありますが、これについては「陰刻本(いんこくぼん)」という呼称があります。見た目は同じようですが、石碑等を摺りとった「拓本」とは別ものですので、注意が必要です。
こういったことについては、NCRでは言及されていませんが、「出版・頒布等に関する注記」のコ)「製作,印刷等について」の位置で記録すべきかと思います。

形態注記のカ)の装丁については、以前説明した「袋綴じ以外のもの」について記録します。袋綴じ(線装)は和漢古書では一般的ですので、基本的に注記する必要はありません。「袋綴じの様式」も、いろいろありはするのですが、通常のレベルの目録記述においては、一般的に「特に説明する必要がある」ことでもないような気がします。
容器についても、これも以前書いたように、「帙入」と記録する・しないは、それぞれの館やコレクションによるかと思いますが、帙以外のものについては注記しておいたほうがよいでしょう。なお、オリジナルの「袋」は、現在において保存容器として使われつづけていることはまずなく、見返しなどに折りたたまれて挟んであったりするのがふつうです。

キ)は次回に見るとして、ク)の「料紙,表紙」についてですが、研究者が編んだ目録等では、楮紙・斐紙などと材料による紙の種類を記録しているものもあります。しかし通常のレベルの目録記述では、そのあたりまでがんばって記録することはありません。なお、NCRの例であげられている「色変り料紙」などというのは嵯峨本(さがぼん)などといった貴重資料でお目にかかるようなかなりレアなケースだと思いますし、3.7.3.5キ)の「料紙は継紙」というものも、これは巻子本など特殊な形態の資料の注記ですね。
表紙についても、詳細な記述をしている冊子目録等では、「雷文地鳳凰文空押濃紺表紙」「縹色布目型押牡丹唐草艶出表紙」などといった具合に書いていたりしますが、これでどういう表紙かピンとくるのは、かなり経験・修練を積んだかたでしょう。いずれにしろ、どの名前がどのような色を示すのか、また模様についても用語や書き順がどこまで統一されているか、といった問題はあり、もちろん色見本や参考書はありはするのですが、一般には、カラーのデジタル画像を1枚つけたほうが、文言で表現するより、はるかに情報として伝わりやすいだろうと思います。
なお、2.7.4.1(古)「タイトルに関する注記」のエ)に「題簽・外題について必要があるときは転記し,その位置や様式等についても記録する。」とありますが、「位置や様式等」までタイトルに関する注記として記録するのは、やはりすこし無理があるように思います。「題簽左肩双辺黄紙」といった表紙上の位置や様式等を記録するのであれば、意味合いからすれば、このあたりの位置で記録するのがほんらい適当ではないでしょうか。

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