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インチキ発見!-和漢古書の丁数

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。
ここ数年間、和漢古書についていろいろ書いてきましたが、主だった事項についてはあらかた触れてきたかと思います。しかしまだほかにも、いろいろ注意しなければならないことがありますので、今年は残っているそれらについて見ていこうと思います。

現代書ではページ数を数えるのに、多くの場合「p」(片面印刷では「枚」)で数えますが、和漢古書の場合は「頁」で数えるのはごく少数派で、たいていは「丁」で数えることになります。「丁」は基本的に、袋綴じにした紙1枚について数える単位で、和装本ではたいてい版心(柱)もしくは「のど」に記載されています。もっとも、明治期のものには袋綴じの表・裏にそれぞれ番号が振られている、すなわち丁付けでなくページ付けがされているものもそれなりの割合で出てきます。それらはもちろん、「p(頁)」で数えることになります。
仮綴じ粘葉装の場合も、紙1枚を折って用いているという点では袋綴じと変わりませんので、やはり丁付けがされていることが多いです。ただ、列帖装の本は、ほかの綴じのように折った紙を順番に重ねていくのではなく、何枚重ねで一くくりとして綴じるかで丁合が変わってくるという装丁ですので、後から書き入れたりしたのでないかぎり丁付けはされていないのがふつうです。

丁付けがされていない単冊のものは、「1冊」とのみ記録するか、丁数を数えて補記することになります。なお、数える場合、写本では文字の書かれている部分を「墨付○丁」と記録する慣習がありますが、NCRにはとくにこのあたりの規定はないようです。
以前書いたように、折本は「1帖」、巻子本は「1軸」と記録します。ただし折本では、折り目ごとに丁付けが入っている場合もありますので、その場合は丁数を記録するか、「1帖(○丁)」という具合に記録することになるかと思います。
1冊もので丁付けがある場合は、「ページ数」の項目に丁数を入れるのがやはりふつうでしょうし、複数冊のものでも各冊の丁付けを注記しておく、という仕様で目録作成することもあるかもしれません。ただ、長澤規矩也氏は「一册本のページを記入することも、明治時代出版の新書のように各序、各跋、目録、中には中の篇が改まるたびごとに別丁になつていると、手間ばかりかかる。誤りも出る。つまらぬことである」(「現代図書館に関する諸問題」『著作集』第4巻所収)と一刀両断されており、同様の状況の和漢古書の丁付けを細かく記録することが、通常の目録作成において、労力に比してどれだけ意味があるか、という問題はあります。
もちろん、専門的な研究の場合は対象資料について詳細に記録されますし、整理対象がごく少量しかない場合は細かく注記してもよいでしょうが、ある程度以上の量がある場合は、どこまで労力・経費をかけるかの判断、ということになるでしょう。もともと和漢古書は、物理的に1タイトル複数冊のものが多いということもありますので、1冊ものも含めて、丁付けの有無にかかかわらず、冊数のみを記録する、というやり方もじゅうぶんありうるかと思います。
ただ、最近では画像撮影ということもあり、コマ数=表紙・裏表紙を含めた丁数を事前に把握しておくことは意味があるかもしれません(もっとも付箋等があった場合、そのままの状態とめくった状態と2枚撮影するといったこともあるでしょうから、厳密な数字は事前には出しにくいだろうと思いますが)。いずれにしろ、その場合でも必要なのは丁数であって、丁付けの細かいありようまで記録しなければならないということには直結しません。

実際問題として、和漢古書の場合、この「丁付けのありよう」というのは、現代書に比べて複雑であることがままあり、丁が抜けている落丁や、順番がおかしくなっている乱丁はもとより、後印や改版の際に、追加をしたり一部削除したり並べ替えをしたりといったことがしばしば行われます。
とくに、現代書ではあまりお目にかからず和漢古書に特徴的なものとして、「又丁(ゆうちょう)」「飛び丁(とびちょう)」というものがあります。前者は「一丁、二丁、又二丁、三丁...」のようになっているもので、丁付けを間違えたのでとりあえず間に合わせで処理したか、あるいは後から追加の丁を挿入したので、その後の丁付けを動かす手間を省いたといったことだろうと思われます。似たようなケースで「一丁、二丁上、二丁下、三丁...」といったような具合にしたものもあります。なお、まったく同じ内容の丁がダブっているケースも時々ありますが、これは「重丁」と呼び、要は綴じ間違いですので、「又丁」とはあくまで別ものです。

「又丁」のほうでは、実際の丁数は丁付けの数字より多くなるわけですか、「飛び丁」はその逆です。こちらは「一丁、二丁、三丁、四之十丁、十一丁、十二丁」のようになっているもので(「之」の用法については前述)、この例では、12丁かと思いきや実際は6丁になるように、実際の丁数は丁付けの数字より少なくなります。
この「飛び丁」は落丁とは区別しなければなりませんが、なぜこんなことをしているか、もちろん後印・改版の際の帳尻あわせということも多いですが、ページ数の多い大部の書物と見せかけるために最初からそのようにしていることが結構あります。辞書類や『節用集』といったジャンルの本に多いですし、元禄頃に京都の八文字屋という書肆から刊行された浮世草子の類(井原西鶴のものが代表的ですね)では、お約束のように「十之廿」と飛んでいたりします。
丁数は工賃や販価、あるいは貸本の際の見料(けんりょう)の計算根拠にもなっていた場合もあるようで、だからこそこうした水増し行為が見られるのだと想像できます。ですので、以前ちょっと書きましたが、「のど」の丁付けは作業上の必要から附しているものですので、版心の丁付けと比べ、こうしたインチキはほとんど見られません。
いずれにしろ、こうした複雑な情況をどう表現するか、通常のレベルの書誌記述としては、正直あまり手を取られずに、「又丁あり」とか「飛び丁あり」とか注記するにとどめるのでよいように思います。

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