こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。
前々回と前回、ふつうの袋綴じ(線装)以外の装丁として、大和綴じ(結び綴じ)や列帖装(綴葉装)や粘葉装のことを見てきました。和装本の装丁としては、これらのほか、以下のようなものがあります。
仮綴(かりとじ):袋綴じの場合も、ひもでかがる前に揃えた紙に二ヶ所穴をあけ紙縒(こより)で下綴じをするのですが、その状態で完成としているものです。表紙がないばあいも多いですが、本文と同じ紙質の表紙をつけていることもあります。「紙縒り綴じ(こよりとじ)」という言いかたもありますが、これは古文書などで重ねた紙の右肩に穴をあけて紙捻で結んだものを指して用いたほうがよいかもしれません。漢語では「紙釘装(していそう)」という言いかたがあります。
包背装(ほうはいそう):袋綴じや仮綴じしたものを一枚の表紙でくるみ、背の部分を糊付けにしたもの。厳密に言うと、綴じ方の種類ではなく表紙のつけ方を言うものであり、「くるみ表紙」あるいは「車双紙(くるまぞうし)」と言った呼称もあります。もともと中国の宋・元・明代、日本でも鎌倉・室町時代に行われた由緒正しい装丁で、それらの現存するものに触れることはまずありません。一方で、江戸時代以降で、仮綴じのものに背をつけて糊付けしたようなものも多く、これはこれでやはり「包背装」と言うほかないように思います。
また、糸や糊でのどを綴じたものではありませんが、以下のような形態のものも時々目にします。
折本(おりほん):お経や書道手本などに多い、つなぎ合わせた紙を蛇腹式に折りたたんで表紙をつけたもの。折り目のところで分解してしまっていることがしばしばあります。漢語では「帖装本(じょうそうぼん)」と称します。これのやや特殊な形態のものとして「經摺装(きょうしゅうそう)」というものもありますが、これは実際に目にすることはほとんどないでしょう。
旋風葉(せんぷうよう):折本の表紙と裏表紙とをつなげた(一枚の紙になっている場合もあります)もので、本を開くと本紙がひらひらとひるがえるので、この名があると言います。表紙・裏表紙―要するに背がわ―を持って持ちあげると、ばさばさっと紙が垂れ下がる感じになりますが、これを防ぐためかどうか、背の部分を糊付けした「固定式旋風葉」と呼ばれるものもあります。
折帖(おりじょう):できあがったかたちとしては「折本」または「旋風葉」に似ているのですが造りが違い、両端の裏に糊付けした紙を裏がわどうしで貼り合わせていって、表紙・裏表紙をつけたもの。地図とか絵の場合、袋綴じだとその真ん中で折られてしまいますが、このかたちであれば見開きで見ることができます。ということで、ヴァリエーションはいくつかありますが、画帖仕立(がじょうじだて)とか法帖仕立(ほうじょうじだて)とか言われるものは基本的にこの装丁です。
以上のような、糸でにしろ糊でにしろ「綴じたもの」(折本と旋風葉はふつう含みません)は、「巻物(まきもの)」に対して「冊子(さっし)」と総称されます。
その「巻物」=「巻子本(かんすぼん)」は、「つなぎ合わせた紙を軸(じく)を中心に巻きつけたもの」と定義されますが、軸が無いものもあります。表紙をつけたものも多いですが、巻物の場合は「褾紙」と書いたほうがよいかもしれません。以前書いたように取り扱いは甚だ不便ですが、書物のもっともふるい形態として、冊子本より格の高いものとして扱われてきました。
もちろん、歴史的経緯としては、巻物→折本→旋風葉→粘葉装→線装といった順番で「進化」してきたところではあり、通常その順序で解説されるものであるのですが、実際に整理する段になると混配されているものでもありますし、ここではあえてそうした順番にはこだわらずに書いてみました。