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合巻おそるべし-和漢古書の書名と情報源(6)

データ部AS・伊藤です。主に和装本を担当しています。

前回、題簽の書名で各冊ごとに表記を変えていくという、現代書に無いパターンについて書きました。今回は、表紙の書名に関し、これまた江戸時代の和本独特のものを紹介しましょう。

いわゆる草双紙(くさぞうし)類の最終段階の形態として、「合巻(ごうかん)」と呼ばれるジャンルがあります。草双紙というのは江戸中期から刊行された、絵入りというか画文一体の通俗読み物で、形態的には5丁で1巻が基本、安永-文化頃だいたい2~3巻構成の黄表紙(きびょうし)と呼ばれるものが盛行しますが、寛政頃から数巻を合綴したかたちで刊行されるようになります。これを合巻と呼び、明治初期まで多数の作品が刊行されますが、中には現代の人気漫画のごとく、相当の長編になっているものもあります。
草双紙にはもともと内題が無い場合が多いのですが、合巻の場合、発生後まもなく、表紙として著名な浮世絵師による錦絵風のものが付けられるようになりました。たいてい、横長の1枚の図が複数冊分に断裁されて各冊の表紙になっており、したがって各冊を並べて置くと続き柄の図になる、という造りになっています。多くは4巻2冊、もしくは6巻3冊の図柄で、たいへん派手で美麗ないかにもキャッチーなものですが、これを摺付(刷付)表紙(すりつけびょうし)と言います。

合巻というジャンルでは、この摺付表紙がもっとも優先される情報源になります。ただ、断裁された各冊の表紙にそれぞれ書名や著者があるとは限らず、時にもとの一枚の図柄の中でも偏った位置にとか横長に書名や著者が記載されており、したがって断裁した結果、各冊の表紙にはそれらの情報が一部分だけ残っている状態になるので、元のように並べて置かないと正しい書名がわからない、という具合になっていることもしばしばあります。ですので、合巻の場合は各冊の表紙を情報源にするのではなく、1枚続きに復元した摺付表紙が情報源になる、ということになります。
表紙の図柄が続き物になっている、というのは現代でもありそうなアイデアですが、書名などまでが断ち切られているというのは、ちょっと注意が必要な情況ではあります。

ただこの合巻、これだけでは終わらず、もっともっと手ごわいことになっていることがしばしばあります。5丁が1巻というのは変わらないのですが、大長編になってくると、4巻で1編の上下、もしくは6巻で1編の上中下という構成で何十編もあったりするのですが、この各編の上下あるいは上中下それぞれに見返しがついていて書名が記されており、さらに編ごとに摺付表紙があるわけです。そして、編ごとにあるいは数編をまとめて1冊に綴じて発行するのですが、その場合摺付表紙はしばしば1枚続きにまとめて綴じ直され(時に見返しもまとめて綴じ直されます)、その外に1冊ずつにまた新たな表紙・題簽をつけていることがあります。
いや、それだけならまだいいのですが、さらに合綴した冊を「袋(ふくろ)」という、一枚の紙を本のサイズの四角い筒状にしたものに入れていることもあり、その袋にもそれぞれ書名が記されていたりします。袋というのは要するに外箱・ケースのはたらきをするものなので当然なくなりやすいのですが、これをまた合綴の表紙・裏表紙の外に綴じ直したりしてくれていることもあります。
で、これらの書名がみな同じかたちをしているかというと、そんな野暮ったいことをするはずもなく、これらがみな少しずつ違ったりしているのです・・・。

具体的にいえば、たとえば『七ふしき葛飾ものかたり』10編40巻、「4巻2冊で1編の上下」という構成のものを4冊に綴じたものだと、摺付表紙=10、見返し=10×2=20、題簽=4で合計34箇所に、『昔模様娘評判記』6編36巻、「6巻3冊で1編の上中下」という構成のものを袋つきで6冊に綴じたものだと、摺付表紙=6、見返し=6×3=18、題簽=6、袋=6で合計36箇所に、書名があるということになります。
もちろん、書名のかたちが全部の箇所で違うというのは実際には無いですし、袋や題簽が欠けていることはしばしばあるわけですが、それでもこういった具合に相当な数にのぼるヴァリエーションがあるということになります。和漢古書としてタイトル単位で書誌を作成する場合、それらをどこまで「その他の書名」として記録するか、あるいはそれらの情報源にあるこれまた多彩な出版事項等の記述をどこまで記録するか、システムの許容範囲によるとしても、何だか気力体力の勝負ということになってきそうですね。

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