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箱入り○○-和漢古書の保管容器(3)

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回まで書いた帙や夾板は、基本的に多巻物など数冊をまとめて保存するのに用いますが、もちろん1冊用に帙を作る場合もあります。ある程度の厚みのある本であればとくにふつうと変わりないですが、薄い本だと、裏表紙がわの面の裏に厚紙を貼るなどして「上げ底」にするなどのくふうをします。
薄い本の場合は、帙ではなく、二つ折りの厚紙に入れておくという方法もあります。ふつうにはこれを「たとう」(漢字では「套」と書きます)と言い、二つ折りなので背はありませんが、留め具はついている場合もあります。裏表紙がわを重ねた三つ折りの厚紙を使用する場合もあり、こちらは「サック」などと称していることもあるようです。
もっとも、これらの包みでは単独で縦置きするのはむつかしいこともありますので、薄くて小型の資料では、立てることのできる二つ折りした厚い板紙の内がわに封筒を糊づけし、その封筒の上部を切って資料を入れておく、といったようなかたちで保存するやり方などもあるかと思います。

和装本の場合、帙に入れられているのがもっとも標準的な保存状態だと思いますので、「帙入」と注記するかどうかは、かならずしも必須ではないと思いますが、帙以外の夾板やたとう、箱などに入れられている場合は、「夾板入」「たとう入」「箱入」などと注記したほうがよいでしょう。
その箱ですが、巻物(巻子本)などは基本的に帙に入れるわけにはいきませんので、容器に収納するとなると、「箱」に入れることになります。「はこ」を示す漢字は、「箱」以外にも「函」「盒」「匣」「筐」「筥」などがあり、ほんらいみなすこし異なった形態のものを指しますが、まああまり厳密にこだわらずに「箱入」としてよいでしょう。特別な材質だったり漆塗りの箱だったりした場合は、「杉箱入」「漆箱入」などと記述したほうがよいかもしれません。
箱は当然横置きに置かれることになりますが、巻物のほかにも、後日触れる列帖装(大和綴じ)の本など、代々伝承されてきたような「格式の高い」本が収められていることが多いです。箱の蓋の表や裏がわなどに、書名や伝来の経緯などが記されていることも多く、それらの箱書(はこがき)は、目録記述の有力な情報源になることもあります。

そうそうお目にかかりはしませんが、何十冊にもなるセットものが収納されている大型の箱に入っている場合もあります。たいていの場合、平積みした本を重ねて入れるようにした縦長の構造で、中が2~3段に仕切られており、前部の上下にみぞが入れられて、上から嵌(は)める前蓋を嵌め外しすることができるようになっています。このような箱のことを「けんどん箱」と言い、漢字では「倹飩箱」とか「慳貪箱」とか書きます。
「けんどん」とは「レール状の構造に嵌めこむ方式」を言い、昔のお蕎麦屋さんの出前の「岡持ち」などが「けんどん箱」の代表的な例になります(ちなみに「突慳貪(つっけんどん) 」というのはこれが語源かと思いましたが、辞書的にはそういうわけでもないようです)。こうしたものは、ふつうの「箱入」ではなく「慳貪箱入」などと注記したほうがよいでしょう。

もちろん、こんな大層な容器を今さら作製することはないと思いますので、はだかの資料を何らかの容器に入れておこうとなったら、中性紙の厚紙で紙帙や紙箱を作るのがいちばんてっとりばやいですし、前述のように保存の目的もじゅうぶん達します。
なお、洋装本のブックケースのようなものは、本体を出し入れする際にどうしてもいたみやすいですし、ふつうの材質だと中に硬いものが収められていないと内がわにたわみますので、和装本を縦置きする際に使用するのはあまり適当ではないかと思います。1冊ずつ封筒に入れたりするのも、多巻物の多い和漢古書では出納に不便ですので、あまりお奨めはできません。

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