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和漢古書あれこれ ― 往来物

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

和漢古書の整理にあたって、よく目にするものとして、庶民の初等教育のための教科書があります。これらは「往来物(おうらいもの)」と総称されますが、これは往復書簡―手紙の往来―の体裁をとったものに淵源があるためです。代表的なものに、室町時代に成立した『庭訓往来(ていきんおうらい)』があり、これは一年12ケ月の各月の往信・返信プラス単信1通の計25通で構成されるかたちをとっています。
この『庭訓往来』は江戸時代には寺子屋の教材として広く用いられ、300種以上もの刊本があると言います。そのほかにも『商売往来』『百姓往来』『江戸往来』『諸職往来』といった多種多様な往来本が刊行されましたが、かならずしも往復書簡の形式をとらないものも多くあります。

往来物全体では刊本だけでも数千点が刊行され、『小野篁歌字尽(おののたかむらうたじずくし)』などの「字尽」、手紙の文例を集めた「用文章」、『童子教(どうじきょう)』『実語教(じつごきょう)』といった児童用の修身書など、いろいろな種類のものがあります。鎌倉幕府の法令集である『御成敗式目』(貞永式目)なども、手習い用に何種も刊行されており、これらは用途からすると「法律」より「教育」に分類しておいたほうがよい場合も多いのではないかと思います。

往来物には複数のコンテンツから成るものも多く、とくに昔からの著名人の手紙とされるものを集めたものは「古状揃(こじょうぞろえ)」と称されます。それらに収録されている書状としては、『腰越状』『熊谷状』など『源平盛衰記』などの軍記物から採録した武将の書簡、『今川状(今川了俊愚息仲秋制詞條ゝ)』『手習状(初登山手習教訓書)』といった教訓状、室町期に作られた『弁慶状』『曽我状』といった擬古状等々があります。関ケ原合戦の年に、上杉家家老・直江兼続が、徳川家康宛に上杉家の立場を論弁したものとされる『直江状』や、大坂冬の陣の開戦直前の徳川家康と豊臣秀頼とのやり取りという体の『大坂状』などといった擬作もしばしば目にします。
総合タイトルがなかったり、「○○往来」という書名をつけられているものでも、中身をよく見るとこれらの古状や教訓書を寄せ集めたものであることもよくありますので、内容細目としてきちんと記録しておいたほうがよいでしょう。

こうした往来物の各種版本・写本の書誌情報と収録内容については、「往来物倶楽部」というwebサイトにたいへん詳しく載っており、往来物の書誌作成をする際にはこちらを参照することが必須です。往来物は全国の大学図書館や公共図書館にも比較的数多く所蔵されており、デジタルアーカイブシステムADEACでも、「三次市立図書館/「往来本」デジタルアーカイブ」といったコレクションを公開しています。

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