「てにをは辞典」
6月の雑記のテーマは「好きな辞典・図鑑」です。昔の、今の、お気に入りを紹介します。
絵本みたいな象さんが描かれた空色の「てにをは辞典」。よく見ると象さんは細かな文字列でできています。仕事中に手にして、最初はどういう辞典だか見当がつきませんでした。使い方を読んでみて、「こういうものが欲しかったかも!」と思って購入しました。
「てにをは辞典 」
辞書、辞典といえば、【見出し語】があって、その意味が書かれているのがふつうですが、「てにをは辞典」に意味は書いてありません。その言葉には、どんな言葉がくっつのか、ひたすらそれが羅列されています。助詞がくっつくことが多く、その助詞の先にどんな言葉がつづくのかが記されているので「てにをは辞典」なのでしょう。
たとえば。「花」という項目をみると、「花が」に続く語として、「香る」「ほころびる」「枯れる」「咲きこぼれる」「咲き満ちる」「しおれる」などががあります。なるほど、花がどんな様子か、いろんな言い方ができるものです。「花をもたせる」「花と散る」「花のうてな」といったメタファー表現、「花より団子」「言わぬが花」ということわざもあります。「花」には、ざっと300語以上のつながる言葉の例がありました。
この辞典は「日本語コロケーション辞典」というカテゴリに入るようです。コロケーションとは、二つ以上の単語の慣用的なつながり、連結関係のこと。「こういうつながり」は、アリか? ナシか? をたくさんの文例から確認できます。
国語辞典にも、文例は載っていますが、数例がいいところなので、こういう使い方をしてもいいのか? という疑問が解消されないことがあります。使ってみたいけど、この使い方でいいのか自信がないとき、他人の文章を読んでいて「その使い方でいいのか?」と違和感を感じた時に開きます。花が咲く、花が散る、ではない、もっとカッコイイ表現をしたいときにも使ってみたい。
わたしはずっと「輩出」の正しい使い方がわからなくてモヤモヤしていました。「○大学は多くの政治家を輩出」か「○大学は多くの政治家が輩出」か。助詞「が」か「を」かで迷っていたのですが、「てにをは辞典」によれば、どちらもOKみたいです。ホッ、やっとこの言葉が使えるようになりました。
OKかどうかに、絶対の正誤はないのだと思います。言葉は意味も用法も移りかわるものです。あくまでも今のところ、どんな使われ方をしているかを知るための辞典だと考えています。250名の作家の作品から60万例を採録したそうです。冒頭にその作家さんの名前が並んでおり、巻末にどの本から引用したかも記してありました(全部文庫本でした)。編者の小内一さんが、一人でコツコツ文例をあつめた労作です。
「あえかな光」という言葉づかいはあるような気がする。小さな、かすかな...みたいな意味だろう。じゃあ、音にも使えるのかな? と、こんなときに「てにをは辞典」を引きます。「あえかな」につづく文例には「小鳥の命」「芳香」「夢」があり、「あえかに」につづいて「美しい」「浮かぶ夜桜」「ほの白い夜明けの雪明り」が載っていました。
音には使われていない。でも例を見ていると使ってもよさそうな気もしてくる。パブリックな文章では文例にならい、詩作や創作には文例をはみ出しても使ってみるなど、判断の助けになります。
もっと使い込みたい辞典です。