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おとうとが何人?(和装本の巻冊次(3))~ASで作成するデータについて~

こんにちは。データ部AS・伊藤です。主に和装本を担当しています。

前回、和装本のセットものの中味の順番を正しく判断するのは結構むつかしいと書きました。本の外がわに巻冊次の表記自体がないというケースは、とくに中国で出版された図書には多いです。
まあ本の外がわに表記がなくても、本文は「巻第一」「巻第二」~などとなっていることが多いですから、複雑な構成になっていなければ、ちゃんと見ていけば順番はだいたいわかります(ただし、和漢古書では巻と冊とは一致するとはかぎらないと書いたとおり、1冊のなかに複数の巻があったり、1巻が複数冊に分かれていたりすることはふつうです)。
ところでこの「第一」「第二」~、図書によっては「弟一」「弟二」~となっているものがあります。「おとうと1」「おとうと2」? 誤記でしょうか。

このように間違った漢字が使われているのではないかというケース、誤記という以外に、以下のようなことが考えられます。
一番目は「避諱(ひき)」という、皇帝をはじめとする目上の者の本名(諱)を避けるという習慣のために文字を置き換えたケースです。二番目は音通といって、音が同じ別の文字を互いに代用させるケースです(「間」と「閑」、「徳」と「得」など)。三番目は減筆といい、部首を省略する表記法で、ハンコ(篆刻)でよくあります。有名な「漢倭奴國王」の金印の実際の印文は「漢委奴國王」ですが、このとき「委」は「倭」の減筆である、と説明されます。

といったことが考えられるのですが、この「弟」と「第」、(音通とも言えなくはないですが)このいずれでもありません。
順序づけを表す「第」という文字ですが、実はこの字が使われるようになったのはかなり後の時代になってからのことで、もともとは「弟」が順序づけを表す文字だったのです。紀元100年に成立した『説文解字(せつもんかいじ)』という権威ある古代中国の字書がありますが、この字書の見出し字には「第」の字はなく、「弟」を引いてみると、「韋束(いそく)之次弟(しだい)也」(ひもで束ねる順序)とあります。「おとうと」というのはこの「順序」ということから派生した意味と考えられますが、時代が下るにつれ「弟」はもっぱらその意味でのみ使われるようになり、「順序」の意味では「第」が使われるようになりました。ですので、学問的に厳密な意味では「弟」を使うほうがほんらい正しいということになるわけです。誤記と思って「第」に訂正して記録したりしてはいけません。
ちなみに、この「弟一」「弟二」~という表記、文字学の研究が進んだ清朝後期の専門書にその例が多いです。

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