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昔の名前でも探せます(相互参照)

こんにちは。典拠小松です。

図書館蔵書から典拠に異動いたしました。異動後初のデータ部ログ執筆となります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

典拠とは...なんて言い始めると長くなるので、こちらをご覧いただくこととして、典拠作業を始めて、まず頭を悩ませたのが名前の読み方です。作業には慣れてきたものの、図書を手に取る前には「どうかルビがありますように」と心の中で手を合わせます。どんなに一般的な名前でも「仁」と書いてヒトシかと思いきやヒロシ、「~彦」は~ヒコかな?と推測していたら~ヒロだったなど...、珍しい読み方をする場合があるので油断禁物です。

ルビがあれば一安心と思いきや、ごく稀に「記述が同じ同一人物の読み方が一通りではない」ことがあります。今日ご紹介するのは、まれなケースのひとつ執筆活動のある時期に著者みずから読み方を変更したケースです。

比較文学者、評論家、小説家の小谷野敦氏は、本名は「コヤノ,アツシ」と読みます。当初は本名で執筆をされていました。その典拠ファイルはこちら。

11000129057-0000 小谷野/敦 コヤノ,アツシ

ところが、2008年『里見弴伝──「馬鹿正直」の人生』の情報源は、標題紙・背・表紙が「Koyano Ton」、奥付は「こやの とん」。

この本のあとがきで、小谷野氏は次のように述べています。

ところで最近は、当然ながらパソコン上で、私の名前を記すことが多いが、ローマ字変換をしている私は、実はいつも「こやの・とん」で変換している。その方が簡単だからでもあるが、だから弴伝執筆中は、「ton」と打つと、まず弴、次に敦が出ていたはず。折角だから、以後私は、字はそのまま、「とん」と読んでもらって筆名にしたいと思う
(小谷野敦『里見弴伝──「馬鹿正直」の人生』2008,中央公論新社)

これまでTRCでは、ある一人の人が、同じ漢字形で読み方が二つ以上ある場合、どちらか1つを統一形の読みとして採用し、採用しなかった読みは参照形を作成し典拠ファイルを通してどちらの読みでも検索可能にする、という方法を取ってきましたが、ご本人が著書の後書きで今後「トン」を筆名としたいと表明されていることから、「相互参照」とするのが適当であろうと判断し、私たちは小谷野氏の2つめの典拠ファイルを作成しました。

11000129057-0000 小谷野/敦 コヤノ,アツシ
11000542546-0000 小谷野/敦 コヤノ,トン

漢字の部分だけを見ると全く同じなので「なんで2つあるの?」と思いますが、典拠ファイルは「漢字形+カナ形」で1セットとしているので、読み方が違う場合は別の典拠ファイルを作成するのです。

しかし、このままではMARCの上では赤の他人になってしまうので、「アツシ」のファイルには「トン」の典拠IDを、「トン」のファイルには「アツシ」の典拠IDをそれぞれ付与します。そうすることで、どちらかのファイルに行き当たったときも、もう一方のファイルを参照することができるようになります。

このケースの場合は「コヤノ,トン」で本を探した場合でも「コヤノ,アツシ」の名義で書かれた本を探し当てることができ、また「コヤノ,アツシ」で探し始めても「コヤノ,トン」をペンネームとして使い始めてから書かれた著作を検索することができるわけです。

このような典拠ファイルのつくりを「相互参照」といいます。
(詳しい説明は"34年も経ってわかることもあります"をご覧ください。)

ちなみに、小谷野氏の読み方の変更のもとになった里見弴の名前の由来は、「電話帳をペラペラとめくり指でトンと突いた所が里見姓であった」という、今風にいえばユルーいものだとか。里見弴は、本名山内英夫、養子に行ったため姓は違いますが、小説家の有島武郎、画家の有島生馬の弟にあたります。


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