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「号+姓+名+字」の順番です(和装本の責任表示(5))~ASで作成するデータについて~

前回、日本人が中国風の姓名を名乗る「修姓」という慣習について書きました。和漢古書の場合、本文巻頭が最も優先される責任表示の情報源になりますが、巻頭の表記が「物茂卿」のような「姓+名」だけのかたちであればシンプルでわかりやすいのですが、実際はそうしたものはむしろ少なく、慣れないとどこが姓名なのやらわかりにくいかもしれません。

たとえば雨森芳洲(あめのもり・ほうしゅう)の『橘窗茶話』(きっそうちゃわ)という著作の巻頭を見てみると、「對馬 芳洲雨森東伯陽甫著」とあります。「雨森」が姓(苗字)で「東」が名なのですが、その前後にいろいろ文字要素がついています。
まず、「東」のあとの「伯陽」ですが、これは「字(あざな)」で、もともと中国の習慣によるところの、本名を呼ぶのを忌み憚ってつける「呼び名」です。本名は「諱(いみな)」ともいい、自称では用いますが、他人の本名を呼ぶというのは極めて失礼に当たることになるので、成人した時に本名のほかにこの「字」というものをつけます。「伯陽」の後の「甫」は、字のあとにつける美称(びしょう)です。このほか、「名」や「字」の後に、「~先生」「~大人」などといった敬称をつける場合もあります。
つぎに、前のほうにつくものですが、まず「對馬」(対馬)は、この人の本籍地です。中国ではこれを郷貫(きょうかん)と言いますが、日本の地名でも「山城」を「城州」というように中国風に言うことがあります。なお、この位置に書くのは基本的に本籍地ですが、居住地を書く場合もあります。
さて、残るは「芳洲」ですが、これは「号」すなわち雅号で、今で言えばペンネームのようなものです。「漱石」「鴎外」「啄木」「子規」みな号です。「号」は「姓+号」のかたちももちろんありえますが、尊称の場合や名や字と一緒に用いられる場合は、姓の前に置かれます。たとえば石川鴻斎(鴻斎は号・名は英・字は君華・修姓は石)といった人の場合、「石川鴻斎」のほか「石(川)英君華」「鴻斎石(川)英」「鴻斎石(川)英君華」「鴻斎石(川)先生」といった表記はありますが、「石川英鴻斎」「石川英君華鴻斎」とかいった並びには基本的にまずなりません。

また、日本人の場合、本姓のあとに「朝臣(あそん)」とか「宿禰(すくね)」などといった「姓(かばね)」をつけて、「大江朝臣元就」(=毛利元就)という具合に書くことがあります(同じ漢字なのでややこしいですが、姓(せい)ではありません)。通称や官職名は、「長谷川善左衛門寛」という具合に苗字と名の間に置かれます。苗字と本姓とを両方書く場合は、「新井筑後守源朝臣君美」(=新井白石)といった順になります。

さて、こういった要素が組み合わされた表記の場合、そのまま転記してももちろん間違いではないのですが、それではやはりどうも芸がありません。それに漢籍の場合は「字」や「号」が書いてあっても本姓名のみを記録するというのが原則ですので、記述形としては、日本人もそれにあわせて姓名を抽出して記録したほうがよいでしょう。たとえば、『橘窗茶話』は「雨森東著」とすればいいですし、「石英君華著」などとあれば「石英著」とするということになります(もちろん、統一形は「雨森/芳洲」「石川/鴻斎」となります)。
姓もしくは苗字のあとに「名」の表記がなくて「字」や「号」しかない、すなわち「石川鴻斎先生著」とあれば、敬称は省いて「石川鴻斎著」のようにすればいいでしょう。ただ、「鴻斎石先生著」とあったら、表記の順序を転倒して抽出するよりは、そのまま転記したほうが適切かと思われます。なお、この場合は「鴻斎石著」としてしまうとちょっとわかりにくいので、「鴻斎石先生著」全体をひとかたまりとして転記したほうがよいかと思います。
「新井筑後守源朝臣君美著」のような場合は、記述形は、本姓と苗字とでは「名」により近い位置にある本姓のほうを選んで、「源君美著」とするのが適切かと思います。

ちなみに、官職や位階は、正式には姓の前に置くのですが、中国では時々ものすごく長いものになることがあります。たとえば、宋の司馬光の撰による『資治通鑑』(しじつがん)という著名な史書の巻頭を見てみると「朝散大夫右諫議大夫權御史中丞充理檢使上護軍賜紫金魚袋臣司馬光奉敕編集」となっています。こういうのを見るたび、官職名は省くという規則でよかったなと思うわけです・・・。

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