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内題か外題か-和漢古書の書名と情報源(2)

データ部AS・伊藤です。主に和装本を担当しています。

前回の最後に、和漢古書の場合、書名の最も優先される情報源は「本文の巻頭」だと書きました。現代書の情報源であるところ、「標題紙、奥付、背、表紙」は、そもそも存在しなかったり、書名が記載されていないことが多かったりということで、情報源とするのは不適当です。題簽が剥落しやすいというのは前回書きましたが、基本的に糸で綴じているだけの和装本は、綴じ糸が切れて表紙や裏表紙が行方不明になることもしばしばあり、図書の外がわほど情報源として不安定と言えます。本文の巻頭というのは、その意味で目次や序跋(これらはそもそも存在しないこともよくあります)と比べても最も安定的と言えますし、書名のほか著者等が記載されていることも多いという点で、和漢古書において一般的に最も確実な情報が得られる箇所と言えます。

巻頭(巻首)や巻末(巻尾)、目次や序跋など、図書の「内がわ」に存在するタイトルのことをまとめて「内題(ないだい)」と言い、扉・見返しや表紙・題簽のような図書の「外がわ」に存在するタイトルのことをまとめて「外題(げだい)」と言うことがあります。狭い意味では、内題は巻頭のタイトル、外題は表紙のタイトルの意味でそれぞれ使われます。ただし、歌舞伎の演目の正式なタイトルのことも「外題」と言いますので、目録記述に当たっては、多義的で誤解を招きやすい表現はあまり使わず、使うのであれば広い意味のほうで使うだけにしたほうがよいかとは思います。ことに表紙の書名のつもりで「外題のタイトル」「外題の書名」などと言うと、「題」自体がすなわちタイトルの意味ですから、おかしな言い回しということになります。

さて、和漢古書の場合、図書の「外がわ」の部分は逸失しやすいですから、外題は採用せず、内題を採用するというのが一般原則です。NCR1987年版の2.0.2.3でも「書名と著者表示」の情報源は「和古書,漢籍はつぎの優先順位による (1)巻頭 (2)目首,自序,巻末 (3)外題,題簽,見返し,扉,版心,小口書」となっていましたし、前回触れた長澤規矩也氏の『図解古書目録法』(汲古書院 1974)などでも、「和漢書において、最も拠りどころになる書名の所在は、国書の一部を除いては巻頭である」(p9)と明記されています。

しかしここで気になるのはもちろん「国書の一部を除いては」というところで、具体的にはどういうものかというと、王朝文学(物語・日記)や俳諧書、小説の一部(草双紙(くさぞうし))などのジャンルの図書になります。これらにはそもそも内題が無いのがふつうで、書名は表紙または題簽、あるいは柱(版心)にしか存在しません。そうしたものは、当然外題を書名として採用することになります(ちょっと横道に逸れますが、ある程度の量を扱っていると実感できる和本の大きな特徴は、ジャンルによって図書のカタチ(形式・見た目・雰囲気)がだいたい決まっている、ということです。逆に言えば、経験を積んでいくと、中身を見なくても本の見た目だけで、どういうジャンルの本かかなりな割合で見当がつくようになります)。

また、これは次回また書きますが、テキストに対する注釈書だったり、原本にたいする改訂だったりする場合、巻頭にある書名よりは表紙や題簽の書名のほうが適切であることもよくあります。もっとも、再版時に巻頭の書名はそのままで題簽だけ付け替えるのを「外題換え(げだいがえ)」と言いますが、内容を改訂していた場合は外題のほうを書名として採用したほうがよいでしょうが、内容はそのままで、出版者がたんに人目を引きたいがためにとか新刊本に見せかけたいがために行うこともしばしばあり、そうなるとその場合は元のままの内題を採用したほうが適切かということになりますので、一概にどうすべきとは言えません。

けっきょくのところ、本の造り手がどの情報源の書名を「その図書の書名」すなわち本タイトルとして認識してもらおうとしているかということがキモなのであって、漢籍や準漢籍、仏典や学術的な著作といったものは唐本よりの伝統として巻頭優先でほぼ問題ないでしょうが、上にあげたジャンルのものはもちろん、それら以外でも外題を本タイトルとしたほうが適当かもしれないというケースはそれなりにあるのです。
といったことを踏まえてだと思いますが、NCR1987版改訂3版では「情報源の選択に当たっては,時代,ジャンルあるいは造本等の事情を考慮する。」とした上で、「タイトルと責任表示 (1)巻頭,題簽,表紙 (2)目首,自序,自跋, 巻末 (3)奥付,見返し,扉,版心,著者・編者以外の序跋 (4)小口書,識語等 ただし,漢籍については,巻頭を優先する。」と規定し、「題簽,表紙」を巻頭と同じ順位に格上げしています(ほかにも87年版とは微妙な違いがありますね)。

実際の運用としては、漢籍を含むすべてのジャンルにわたるコレクションを整理する場合は原則として内題主義を採用し、巻頭以外から書名を採用した場合は例外なく「書名は○○による」という注記を入れるという仕様にしたほうがむしろ一律的でわかりやすいかと思います。しかし上記のような特定のジャンルのコレクションの場合は、NCR87R3で規定されている通り、一々とくに情報源の注記をせずに、表紙や題簽から書名を採用したほうが煩雑でないと思われます。

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