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和漢古書の書名と情報源

こんにちは。半年ぶりに、データ部AS・伊藤です。主に和装本を担当しています。
今回は標記のテーマでしばらく書いてみようかなと思います。よろしくお願いします。

現代書の和書であれば、書名の情報源といったら「標題紙、奥付、背、表紙」であるのはまず最初に教わるところですが、和漢古書の場合はどうなるでしょう。
和漢古書でもっとも一般的な装丁は線装(袋綴じ)ですが(装丁についてはまたいつかどこかで触れようと思います)、この装丁の場合を始めとして和漢古書には現代書のような「背」はそもそも存在しません。所蔵者が書名を墨書していることなぞは時々ありますが、むろんそんなものは原則情報源にはなりません。
「奥付」は存在していることがありますが、基本的に著者と出版事項を記載するところであって、書名の記載があることは実のところあまりありません。

「表紙」はたしかに存在することがふつうですが、そこに書名があるとはかぎりません。これは現代書(洋装本)でも、本体の表紙についてはある程度はそうかと思います。また和漢古書では、表紙に直接書名が書かれていたり(=打ち付け書(うちつけがき))印刷されたりしている場合よりは、むしろ表紙に貼られた短冊状の紙片すなわち「題簽(だいせん)」に書名が書かれている(あるいは印刷されている)ことがむしろ多いです。
ただ困ったことに、この題簽はほんらい軽く糊付けされているだけですので、往々にして剥落したり破損したりしています。ちなみにそれを防ぐために、多巻物の場合、平積みにしたり帙(ちつ)に収めておいたりする場合、1冊目だけ表裏逆にして重ねて置き、こすれやすい一番上の面には1冊目の裏表紙がくるようにする、というお作法があったりします。

さて、では「標題紙」はどうでしょう。刊本では、表紙裏すなわち見返し(みかえし)の位置に書名・著者・出版事項が印刷されていることがしばしばあります。見返しではなくその対向ページ、すなわち扉(とびら)がそうした版面になっていることもあります。同内容の本でまったく同じ版面が刷りの先後によって片や「見返し」にあり、片や「扉」にある、などといった事態もありますので、「見返し」だろうが「扉」だろうが、どちらでも意味合いは変わりません。実際、唐本ではどちらも「封面」(ふうめん)と称して区別しません(近現代では「封面」を表紙の意味で使うこともあります)。ただし、こうした見返し・扉(封面)それ自体が存在していないということもごくふつうにあります。
写本の場合は、存在するとすれば「見返し」よりは「扉」の位置に書名が書かれていることが多いです。ただよくあるのは、後から表紙をもう1枚つけたので、元の表紙が「扉」の位置になってしまったというケースで、これは見分けにくいことも多いですが、ほんらいの扉とは区別するべきでしょう。また扉があっても、収録されている内容著作に対応するものであって、全体の扉にあたるものは無い、などということもしばしばあります(これらはむろん刊本でもありえますが)。

いずれにしろ、記載されている内容から言って、標題紙の機能を果たすものとして見返し・扉という情報源が存在している、と言いたいところですが、実のところこれについては強烈な異議があります。日本で古典籍の書誌を学ぼうとすれば斯界の泰斗である長澤規矩也氏の著作・所論を逸することはできませんが、この長澤氏が「標題紙(タイトルページ)と扉とは別物である」「和書の扉をタイトルページと称するのは誤りである」ということを、いろいろな著作や辞典でくりかえしくりかえし主張されているのです。
たしかにタイトルページというのはもともと洋書のものですから、歴史的経緯から言って長澤氏の言われるとおりなのですが、といって現代書では扉すなわち標題紙イコールタイトルページということで定着してしまっており、和装本でも、現代書であれば、扉を標題紙として扱うのが自然だと思われます。明治期の和装本は、物によっては和漢古書として扱っても現代書として扱ってもよいということを以前書きましたが、現代書として扱うのであれば、上記のような扉・見返しを4情報源の第一である標題紙として扱うというのが現実的だと思われますし、実際に各機関でそのように書誌が作成されているようです。ですが、和漢古書として扱うのであれば、やはり扉は扉でしかなく、存在したとしても、標題紙のような何よりも優先される情報源ではない、と見なければなりません。

ということで、「標題紙、奥付、背、表紙」の4情報源は、和漢古書の場合、そもそも存在しているとは限らず、存在していても書名があるとは限りませんので、情報源とするのはいろいろ問題があります。ということで、和漢古書の場合、書名の情報源とするのは、「本文の巻頭」になります。
・・・と、このことはNCRにもありますので知識としてご存知の方も多いとは思いますが、目録作成の実際となると、またいろいろ問題が生じます。次回以降、それらについていろいろ見ていこうと思います。

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