「大和綴じ」はどっち?-和本の装丁(1)
こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。
以前、「和装」の説明で、「紙を袋とじにし、それを糸で綴じたものを言うが、ただし実際にはいろいろなヴァリエーションがある」と書きました。今回からはそのことについて書こうと思いますが、ただし、この問題も、迂闊に足を踏み入れるとなかなかたいへんなことになりますので、慎重に書きたいと思います。
「和装本」というと、ふつうには紙を山折りにして重ね、折り目の反対がわを糸で綴じた「袋綴じ」が一般的ですが、和装本の一種として説明されるもので、「大和綴じ(やまととじ)」というものがあります。一般的には、袋綴じのものと同じく背は無く、表紙の上から2箇所にリボンや紐を通して表面で結んで綴じたもののことで、明治から戦前の写真帖などでよくあります。紙自体は必ずしも袋状になっているとはかぎらず、洋紙を重ねたものを綴じているものもよく目にします。
この綴じ方、刊行物においては基本的には明治期以降になってから使われるようになったもので、江戸時代以前の刊本では実例は少ないと思われるのですが、その一方、「大和綴じ」という呼称自体は存在していました。どういう装丁に対して用いた呼称かというと、ちょうど今日の大学ノートのように、紙を数枚重ねて折りそれを一くくりとして、数くくりの折り目を糸で綴じあわせた、ふつう「列帖装(れつじょうそう)」と呼ばれる綴じ方のことだったようです。
なお「列帖装」とは、紙を折り重ねた「帖」を列(つら)ねたもの、ということで「列帖」と言うのだと思われますが、実際は、一くくり分だけの場合もあります(「列葉装(れつようそう)」という言い方もあるのはそのためかと思います)。
この「列帖装」、和歌や国文関係の書物に多く用いられますが、もともと平安時代の冊子本の装丁として一般的だったものと考えられます。江戸時代、和刻本漢籍や準漢籍で標準だった、紙を袋状にして糸で綴じた「線装」を、中国由来の綴じ方ということで「唐綴じ(からとじ)」と呼び、それと対比させてこの綴じ方を「大和綴じ」と称したということのようです(用例としては室町後期まで遡ります)。
ということで、同時代的な意識を尊重すれば、この装丁のことをこそ「大和綴じ」と言うべし、ということにはなるのですが、しかしながら現実には上述のような明治期以降の写真帖の装丁のことを指すのがある程度定着しています。それに「大和綴じ」というといかにも日本オリジナルのもののようですが、もっと時代を遡ると唐代中国の敦煌写本の遺物などにこの「列帖装」のものもあるということで、その意味でも「大和綴じ」の使用は避けて「列帖装」にしておいたほうがよいようです。
いずれにしろ、江戸以前のものについて「大和綴じ」というタームを使うと混乱を招くと思われますので、現在ふつうに言うところの「大和綴じ」に類した江戸以前のもの(実例は多くありませんが)については、「結び綴じ」という言葉を使っておくのが無難かと思われます。