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大亀に見える?-注と訓点(和漢古書の形態注記(3))

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回、版式について説明しましたが、NCR87R3のこの「キ)版式,版面」のところでは、「二段本」という注記の例があげられています。ここでの「二段本」というのは、本文がはっきりと上下二段に分かれ、別々の書名を持つものが収録されている本のことを指します。別々の内容といっても、関係するものだったり、上段のものが下段のものの注釈的なものだったりすることも多いですが、いちおう合集として記録し、「上下二段本」などと注記することもなります。
実のところ、たんに「二段本」と言うと、伝統的には、編ごとに別々に刊行されたものが編ごとの大きさが異なっていて並べると段になるようなものを指すこともありますので、誤解を招かないよう「上下二段本」「上中下三段本」のように書いたほうがよいかと思います。なお、とくに漢籍における科挙の受験参考書について「高頭講章本 (こうとうこうしょうぼん) 」という呼称があります。

「上下二段本」と似たものとして、「首書本(しゅしょぼん)」というものがあります。これは、本文へのまとまった量の注釈が上層に附されているもので、はっきり枠で分けられている場合もあれば、そうでない場合もあります。また上部のみならず、原紙の両端がわ(のどに近い部分)も上から下まで注釈になっていることもよくあります。
首書本は、見返しや題簽の書名が「首書~」となっていたり、「首書」を注釈者の責任表示とするのが適切な場合も多く、どちらかと言えば本文よりむしろ首書(かしらがき)のほうが重要なことがままあります。「頭書(とうしょ)」も同じく「かしらがき」と訓じ、同様の意味で使われることも多いですが、あえて区別して使用するとすれば、往来物や節用集などで、本文ととりあえず関係ない附録的な内容が載せられているものなどについて、「頭書あり」などと記録するのが適切かと思います。
ちなみに、漢籍ではこうした首書・頭書のあるものは「鼇頭本(ごうとうぼん)」とも称します。「鼇」とは「大海がめ」のことで、本文部分を亀の甲羅に、上層部分を突き出た頭に見立てて「鼇頭」と称するのだそうですが、何だか今ひとつピンと来ないような気も。いずれにしろ、「鼇」などという字はこの用例でしかまずお目にかかりませんが、和漢古書ではこの「鼇頭」はよく目にしますので、何のことだか理解して間違わずに記述したいところです。

「首書」や「頭書」と境目ははっきりせず重なる部分がありますが、「頭注」がついているものも和漢古書では多く目にします。本文を囲む枠の上にあるもの・本文の枠の上にもう一段枠を設けてそこに注を施したもの・本文とあわせて枠の中にあるもの・枠自体ないものなど何種類かあり、違うタームで呼び分けるひともいますが、一律に「頭注あり」としてよいだろうと思います。書名で「冠注」「標注」「標記」などとあるものも同様のものです。なお、後日ふれる仏教書では「科註」という特殊な注釈が刻されていることもよくあります。
「割注」は和漢古書では一般的なもので、版式のところで「○行○字注文双行」と書くやり方もありますが、基本的に「割注あり」などとわざわざ記録する必要は無いと思います。「脚注」は和漢古書ではかなりレアですが、まったく無いわけではありません。

注(註)は基本的に作者より後のひとによる二次的な関与ですが、同様に後人の二次的な関与として訓点、すなわち送り仮名・返り点の類が施されている場合もあります。訓点の有無や種類が重要なのは、長澤規矩也氏が『和刻本漢籍分類目録』の凡例の冒頭で「和刻本漢籍の主要な價値は、訓點が加へられたところにある」と喝破されているとおり、和刻本漢籍の場合ですが、日本で書かれた漢文の著作でも同様に注記したほうがよいだろうと思います。ちなみに、訓点が施されていないものを「白文(はくぶん)」と言います。
記録のしかたとしては、漢文に送り仮名・返り点・句読点とも付されているものを「訓点付」、返り点と句読点だけが付されているものは「返点句点付」、句読点(現代のような句点と読点の区別はありません)のみが付されているものは「句点付」などと注記します。訓点に加え、振り仮名もあるものは「訓点傍訓付」などとします。なお、「訓点」と言うとほんらいそれ自体として「送り仮名」をも含みますので、「訓点送り仮名」という表現はあまりよろしくありません。
中国で刊行されたものについては、句点や圏点(強調を示す傍点)が付されたものもありますが、基本的に記録する必要はありません。また、かな交じり文の和書の振り仮名などにいてどこまで詳しく記録するか、江戸初期以前のものはともかく、一般的にはとくに不要ではないかと思います。

NCR87R3では、注や訓点のことは2.7.4.7(古)に識語や書き入れと一緒に記されていますが、それら識語や書き入れはアイテムレベルの注記になりますので、体現形レベルのこれらの事項は、やはりそれらとははっきり区別して、2.7.4.5(古)のク)の後に記録するのが適切でしょう。もちろん、所蔵者が書き入れたものであれば、それはアイテムレベルの注記ということにはなりますが、意味合いが全然ちがってくることは言うまでもありません。アイテムレベルの注記については、後日改めて見ることとしたいと思います。

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コメント (2)

目録迷子:

いつも参考にさせていただいております。
注文双行について質問があります。
書誌に注文双行があった場合、これは「注文双行もあるよ」という意味でよろしいでしょうか。

当方は、こちらのブログを参考にさせていただいており、割注ありと記載しております。注文双行ありと書いていたら「注文双行もあるよ」と言葉そのまま受け取れるのですが、「○行○字注文双行」とある場合の受け取り方について少し気になりました。(ほぼ注文双行であったりする場合もあるのでしょうか)

AS 伊藤:

目録迷子さん、コメントありがとうございます。
ご質問の件ですが、「○行○字注文双行」と書けば「割注もあるよ」という意味になります。ちょっとだけ割注がある場合も、ほぼ注のほうがメインという場合もどちらも使います。後者は、一字一句に大量の注釈がつく経書の注釈本なんかでよく見ますね。

「注文双行」というのは、ほんらい漢籍目録で使用されるタームで、行数字数とセットになった「○行○字注文双行」という書き方のほうがよく、「頭注あり」「割注あり」のような感じで「注文双行あり」と書くことは基本的にしません。
漢籍でのタームだということからすると、原則としては「すべて漢字のもの」について使うべきと思われ、書き下し文や和文のものに使うのはあまりよろしくない気がします。その意味では「割注あり」という書き方のほうがすべてをカバーできるということになります。

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