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江戸時代のうちの子~典拠のはなし~

こんにちは、典拠 小松です。

4月後半、典拠には古典が入荷していました。史料を集成したものだったので1冊の著者が数十人と多く、始業から終業までずっと参考資料と首っぴきという数日間を過ごしていました。

古典作品の著者の特徴のひとつは、別名が多いこと。

本名に雅号は当たり前。幼名、通称、屋号、別称、果ては法名に至るまで、ライフステージやTPOに合わせて複数の名前を使い分けていきます。

しかし、現代人が古い資料を調べたり、古典文学を読む際に、この複数の名称は困りものです。同一人の著作をまとめて調べることができません。そこで、統一標目の出番です。

TRC MARCが準拠している「日本目録規則1987年版 改訂3版」(NCR)にはこうあります。「23.2.1.1 著名な、あるいは著作の多い著者については、統一標目はつぎの優先順位による。」
ア)参考資料等において多く用いられている形
イ)多くの著作で一致している形

現代の著者であれば図書にあった形を統一標目にしますが、古典の著者など資料に掲載されているような人物なら、よく知られている形を統一標目にした方が検索に便利です。

TRCでは、図書に書かれた形より上位におく資料を決めており、それらを参照しながら統一標目(典拠ファイルの統一形)、記述形、参照形を作成していきます。

例えば、以下のような作業。

図書の形:今村虎成

図書の形で参考資料を調べていくと「コンサイス日本人名事典 第4版」(三省堂)と「日本人名大辞典」(講談社)に項目がありました。

しかし、ここで安心してはいけません。人名事典には大抵別名が掲載されています。

字は子成、渋柿蔕成・下手的と称す(コンサイス日本人名事典)

字は子成、通称は丹次、楽。号は渋柿蔕成(日本人名大辞典)

別名で項目が立っている可能性があるので、ここで再度、判明した別名で、今まで引いてきた参考資料類を引き直します。

すると、「国書人名辞典」(岩波書店)、「日本人名大事典」(平凡社)、国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(以下NDLA)に「今村楽(あるいは樂)」で項目が立っていることがわかりました。

しかし、まだまだおしまいではありません。更に同様に「今村楽」で項目が立っている参考資料に掲載されている別名で、再度今まで引いてきた参考資料類を引き直します。

名、楽・虎成。字、子成。通称、丹次。号、下手的・渋柿蔕成・名無具同字・仙台通蔵。法号、鏡月玉光居士。(国書人名辞典)

字は子成、通稱を丹次といひ、狂號を渋柿蔕成と稱した(日本人名大事典)

渋柿蔕成(狂号);丹次(通称);今村,楽(イマムラ タヌシ);楽(名);子成(字)(NDLA)

こうして、別名で参考資料(もちろんTRCの典拠ファイルにも)に掲載がないことを確認。ここまでひたすらに参考資料をめくり、キーボードを叩き、コピーを取り続けます。

そしてようやく、参考資料類の項目を照合します。

「今村虎成」で項目が立っている参考資料
コンサイス日本人名事典 第4版(三省堂)
日本人名大辞典(講談社)

「今村楽(あるいは樂)」で項目が立っている参考資料
国書人名辞典(岩波書店)
日本人名大事典(平凡社)
NDLA

統一標目は、先述のNCRの記載にもとづいた内規により、参考資料の優先順位および多寡によって決定します。

今回の場合は以下のようになりました。

統一形:今村/楽(イマムラ,タヌシ)
記述形:今村/虎成(イマムラ,トラナリ)
参照形:今村/樂(イマムラ,タノシ)

参考資料の項目で、統一標目にならず記述にも出ていない形は、参照形として作成します。

こうして統一標目の決定に至るまで、複数の入力者、チェック担当の手を参考資料のコピーが行き交い、かなりの時間が経過します。書き出すと本当に長いですが、これは非常にスムーズな事例。

実際は同一人の同定に手間取ったり、異体字に惑わされたり、誤植に悩まされたりと、更にいろいろな工程が複雑に入り組んできます。

とにかく地道な作業の末、完成した古典の著者の典拠ファイル。どうか末永く活用されますように。ファイルの中身は江戸時代の人ですが、そう母の心で願っているチェック担当者なのでした。

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