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2019年3月 8日 アーカイブ

2019年3月 8日

「ハンニャハラミッタ」ではいけなかった?-仏教書の注意点

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回、仏教書のシリーズ『大藏經』について書きました。もちろん、仏教はきわめて専門性の高い分野で、正直、部外者があれこれ言えるところでもなく、長澤規矩也氏でさえ『和刻本漢籍分類目録』では医書(医家類)と仏書(釋家類)は対象外としています。
ただ、日本の仏教界はきわめてぶあつい伝統がありますし、また『大正新脩大藏經』の電子化も他に先駆けて進んでいるなど、仏教系の各大学等でハイレベルな整理が進められていますから、一般人としてはそれらを頼りにすればよいでしょう。ただし、同じ語でも宗派によってヨミが違うなどということもあったりするようなので、そのあたりは注意が必要かと思います。

また、西域や印度出身の訳経僧の名前は、伝統的には「支婁迦纖(しるかせん)」「菩提流支(ぼだいるし)」といった漢字形とその音読みで通ってきているのですが、洋書と一緒のデータベースに格納したり、国際典拠を意識したりということになると、やはり「Lokakṣema」「Bodhiruci」などサンスクリットのアルファベット表記形を統一形とするべき、ということになるでしょう。同名異人や異名同人も結構いますので、慎重に同定する必要があろうかと思います。
ちなみに以前、漢籍の責任表示のところで、仏僧については「(唐釋)」といった具合に「王朝名+釋」を頭につけて記録するということを書きましたが、お坊さんであることを示す語としては、「釋」とか「僧」とかのほか、「佛子・沙門・桑門・頭陀・杜多・比丘・苾芻・三藏」といったものがありますので、気づくようにしておきましょう。
また統一形としては、原則として俗姓は無視して「玄奘」「空海」などと法名のみを記録します。なお、禅宗の僧侶の場合は、「夢窓疎石(むそうそせき)」「春屋妙葩(しゅんおくみょうは)」のように「道号+法諱」を統一形とする場合もありますが、もちろんこれを「姓,名」のように記録したりするような真似はしないよう、注意しましょう。

また、仏教関係の目録記述でもうひとつ注意しておかなければならないこととして、梵字(ぼんじ)のことがあります。これは、仏教成立当時のインドで使われていた梵語(サンスクリット語)を筆記するのに用いられた文字―ただし、あくまでいくつかの筆記体系のなかの一つです―で、われわれが卒塔婆とかで目にするあの文字ですね。厳密にはイコールではないということですが、悉曇(しったん)文字とも呼ばれます。ちなみに「悉曇学」というと、梵字を対象とした音韻の学問で、江戸時代以前の日本語の言語学的研究にも大きな影響を与えました(仮名の五十音図などは悉曇学に基づいて成立したものです)。
この文字は、やはり仏教関係では書名などでも時々出てきて、とくに密教系の本ではよく使われますが、現在のところ通常のコンピュータ環境では入力できません。ということで、目録記述するとなると、ゲタなどで記入しておくか、カナやアルファベット、あるいは系統を同じくするインドのデーヴァナーガリー文字で補記する、ということになるかと思います。

ちなみに、NCRの標目付則1の1.2.2では、外国語・外来語の漢字による当て字(音訳)に対しては、原語の発音に対応するカナ読みを与えるということになっていますが、仏教用語では当然サンスクリットからの音訳のものが多いです。となると、悉曇はシッダム、卒塔婆はストゥーパ、般若波羅蜜多はプラジュニャー・パーラミターと読みを与えるべきなのかとか、「僧」とか「菩薩」とか当て字をさらに省略したかたちの場合はとか、いろいろ悩ましくもなってきますが、基本的に江戸時代以前に入ってきた梵語由来のものは、もう日本語の単語としてふつうに音読みするということで、もちろんよいはずと思います。

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