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2019年3月18日 アーカイブ

2019年3月18日

「書き入れ」≠「書き込み」-アイテムレベルの注記(3)

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前々回前回、印記について見てきました。所蔵者を示す情報としては、江戸時代以前のものはすくないですが、蔵書票が図書に貼られていることもたまにあります。これは印記と同様、「蔵書票:「○○藏」」などと記録すればよいでしょう。
よく見られるのは、現物の表紙や裏表紙やそれぞれの裏に直接「○○藏書」などと書いてあるケースです。20世紀に至るまで、昔のひとは本に限らず物品を入手すると、いつ・どこで手に入れたかをモノに書きつけておく習慣があり、「昭和十年八月十日於神田山本書店購求」といった墨書をよく目にします。こういった旧蔵者や伝来の履歴を記したものについては、「表紙記:「○○藏書」」とか「裏見返しに「文化丙子之夏於平安書肆求之 岩本氏」と墨書あり」といったぐあいに記録しておけばよいでしょう。
漢籍の用語ではこういった書き入れのことを「識語(しきご)」といい、したがって「識語:文化丙子之夏於平安書肆求之 岩本氏」などと記録してもよいのですが、たんに「○○藏書」とあるようなものについてはふつう識語とは言わず、基本的には、その図書の伝来の履歴を示している文章や、後の時代の学者が記した書誌学的なメモの場合にこのタームを使うことが多いです。
識語が記されているのは見返しや裏見返しといった場所が多いですが、以前見た「奥書」と違い、とくに場所の限定があって使用されるタームではありません(だからこそ、「巻末の識語」と「奥書」とは重なってくるのですが)。他方、文字や文章を練習したものや「へのへのもへじ」のような落書き(時にもっと尾籠猥雑なものもあったりします)など、あまり意味のないものは、「書き入れ」とは区別して「書き込み」と称し、基本的に無視します。小説本の見返しや裏見返しには、「此の本何方様へ参り候とも早速御返し下さるべく候」といった貸本屋の文言もよく目にしますが、これらも転記して記録するかどうかは微妙なところかと思います。

旧蔵者による書き入れでいちばん多いのはもちろん、注釈やルビ、訓点などを本文に書き入れたものです。これらについては、もともとある―すなわち体現形レベルで存在する―注や訓点とは厳密に区別しなければいけません。もっとも、刊本ならそこははっきり区別できますが、写本の場合はもともとあった頭注なのか書き入れなのか、判然としないこともしばしばありはします。
記録のしかたとしては、基本的には「書き入れあり」としておけばそれでよいかと思います。すべて朱筆による場合は「朱筆書き入れあり」、墨書と朱書と両方ある場合は「朱墨書き入れあり」といったぐあいに記録します。
なお、注釈の書き入れの場合、当人による注やメモのみならず、先人の注釈を書き写していることもあります。行き届いた人だと、注釈者ごとに黒・朱・藍・緑などで色を変えていたり、各巻末に「何年何月何日誰それの注によって校了 何某」と明記したりしており、そういった年記や人名の情報は何らか記録しておいたほうがよいでしょう。

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