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経書と緯書― 和漢古書の書名の漢字:「經」(1)

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

和漢古書の目録作成において、漢籍やそれらを踏まえた和書の書名に使われる文字や熟語について、知っておいたほうがよいと思われることを見ていこうと思います。

以前、「四部分類」という、中国の伝統的な学術体系による分類法のことを書きました。その大分類は「経・史・子・集」となっており、筆頭の「経部」に収められるのは儒教の経典(けいてん)と小学書です。「四部分類」のおおもととなる前漢末の劉歆(りゅう・きん)の『七畧(しちりゃく)』という分類では、「六藝畧(りくげいりゃく)」というのがこのグループに相当し、「六藝」として易(えき)・書(しょ)・詩(し)・礼(れい)・楽(がく)・春秋(しゅんじゅう)の六種、および論語・孝経・小学の計9種類の書物が著録されています(この『七畧』自体は残っていませんが、『漢書』芸文志にほぼそのまま採用されています)。
これらの六種の書物はいずれも周公(しゅうこう)や孔子(こうし)といった儒教における聖人の著作もしくは編纂物として権威づけられ、「楽」ははやくに失われましたが、残りの五つの書物を教学する学官として、前漢の武帝の時に「五経博士」が設けられました。
唐代には、五経のうち「礼」は「周礼(しゅらい)」「儀礼(ぎらい)」「礼記(らいき)」の3つに、「春秋」は「左氏伝(さしでん)」「公羊伝(くようでん)」「穀梁伝(こくりょうでん)」の3つに分けられてカウントされ、「周易(しゅうえき)」「尚書(しょうしょ)」「毛詩(もうし)」とあわせて「九経」という言い方がされるようになりました。
さらにこれに「論語」「孝経」および小学書の「爾雅」が加わって「十二経」、宋代に「孟子」が加わって「十三経」というまとめ方がされるようになります。「四部分類」の経部の中分類・小分類は、これらに属する書物すなわち「経書」を再構成・再配列したものと言うことができます。

「経」というのは、『説文解字』に「織の從絲也」とあり、もともと織物の「たていと」の意味で、「経書」は「布帛に縦糸があるように人の道にも古今を一貫する道があるというので名づけたもの」(『中国学芸大事典』p165)だと説明されます。
さて、縦糸があるなら横糸もあるわけで、「縦糸」の「経」に対する「横糸」は「緯」になります。「緯度・経度」とか「経緯」とかの「緯」ですね。漢籍においても、「経書」に対応する「緯書」という一群の書物があります。
「経書」のほうは、古今を通じてひとすじにゆるがない聖賢の述作とされるのに対し、「緯書」のほうはそれの背後に隠された意味あいを解説したものとされ、紀元前後の前漢末から後漢代にかけて、未来記や予言書といった「讖緯(しんい)」の説の書が大いに流行しました。内容的にも年代的にも、ちょうどユダヤ・キリスト教の聖典に対するいわゆるグノーシス文書といったものに似た性格と言えるかもしれません。『春秋緯』とか『易緯乾鑿度』といったものの断片が伝えられていますが、書物の性格上、正統的な立場からは排斥され、隋代に徹底的に禁圧されて完本はひとつも残っていません。

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