2024年の読書界においてぐぐっと存在感を増してきたのが、「聴く読書」でしょう。プロのナレーターや声優が朗読してくれる「オーディオブック」というサービスが人気上昇中です。TRCの電子図書館サービス"LibrariE&TRC-DL"でも、株式会社オトバンクが提供しているオーディオブックの取り扱いをはじめました。
さっそく聴いてみました。宮沢賢治や芥川龍之介の短編をプロが読んでくれるのです。一瞬で別世界に行ったような気持ちになります。疲れているときに、自分で文字を追って読むのはおっくうに感じるものですが、読んでもらうのはこんなに気持ちがよいものか! 短いけれど精巧な文学作品は、どんよりとした気分を一新してくれます。
英語や韓国語の語学教材もあれば、ビジネス書、啓発本、ミステリー小説などもあります。小説は収録時間が4時間以上になるものもあり、ナレーターは正確に読むための準備から一人で読み通すまで、たいへんな知力体力が必要でしょう。また複数のナレーターがそれぞれ役柄を演じるラジオドラマのような贅沢なコンテンツもありました。
昨年、「ハンチバック」で芥川賞を受賞した市川沙央さんが、作品の中で「読書バリアフリー」を訴えていたことが、ニュースなどでも大きく取り上げられました。それから紙の書籍の電子化に出版界はずいぶん前進した模様です。電子書籍は、フォントの拡大縮小ができたり、読み上げ機能や検索機能がついたりして、文字を読むことが難しい人にも読書の可能性を広げてきました。でも「読んでくれる」のは、段違いのバリアフリー化です。視力が弱くても、文字を追う体力気力がなくても、「聴く読書」はできるのです。
バリアフリー化という目的だけではなく、読書の別のスタイルになっていきそうだとも感じます。近代以前は、本を音読していたといいます。源氏物語などは誰かが読むのをみんなで聴いていたのでしょうし、江戸時代には会読という読書会がさかんだったとか。速く大量に読むために、また個人で好きなものを読むために黙読が広がったのでしょうけれど、21世紀になって他人の声で聴く読書、誰かのために読む読書が復活するのはなんだか面白い。読書が個人的なものではなく、コミュニケーションの一種になったら、世の中が少し良くなりそうです。まずは「聴く読書」を体験してみませんか。