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漢字表記のありがたみ ~典拠のはなし~

今シーズンの連続テレビ小説は、アンパンマンの作者の「やなせたかし」さんが主人公のモデルになっていますね。やなせたかしさんのご本名は「柳瀬嵩」とのこと。

やなせ氏に限らず、児童書や絵本の著者は、ひらがな、カタカナ表記が多いものです。文字を覚えたばかりのこどもが読むには嬉しい配慮ですが、個人名の典拠の仕事をしているとやや緊張するポイントです。

先日、幼児向けのたべもの絵本の典拠作業に入りました。


「トマト」
いまいまみ(文)かどかわようこ(絵)

福音館書店(2025.4)


図書の責任表示は「いまい まみ」。

TRCの典拠ファイルには「いまい まみ」のファイルはなし。

初めて出現した著者として新規で典拠ファイルを作成しますか? いいえ。ここで一呼吸おいて...。

今度は「イマイマミ」と読みで検索すると、料理研究家の「今井真実」がヒット。「たべもの絵本」であることから、同一人の可能性が高いと考えられますが、本体やスリップには漢字表記がないため、確信が持てません。

Web検索すると、福音館書店さんの公式ウェブマガジン「ふくふく本棚」に、こちらの本の新刊紹介と出版にまつわる特別エッセイ(もちろん今井真実さんの著者紹介もあり)あり。
ご本人のSNSにも「見本が出来上がりました」として、こちらの本の紹介が投稿されていました。

ここまで作業して、ようやく今井真実さんが新たに「いまい まみ」の表記で絵本を出版されるという裏付けがとれたので記述形を作成します。

統一形 今井/真実
記述形 いまい/まみ

これで一安心。

ひらがなやカタカナの表記は、パッと見簡単そうですが、典拠作業をする場合は、漢字表記と比較すると情報量が減ります。上の例のように、漢字表記の姓名に対してひらがな表記が出現した場合以外にも、「わたなべゆうこ」と責任表示があった場合、その著者がすでに典拠ファイルのある「わたなべゆうこ」なのか、新しく出現した「わたなべゆうこ」なのか(はたまた今回のように漢字表記の誰かの別表記なのか)判別することが難しくなります。

それでも、大人向けの図書であれば著者紹介に漢字表記や本名が記載されていることが多いのですが、特に絵本は著者紹介がないことがとても多い。

それではどうするかというと、まず図書のまわり、図書に挟まっているスリップや解説に漢字表記がないか、よくよく確認します。そして、そこになければ、今回の例のように出版社のホームページの新刊情報や、著者のHPやSNSに情報が載っていないか確認。最終的に、どうしても同一人(あるいは別人)とする根拠がみつからず、確信が持てない場合、出版社に確認することもあります。場合によっては過去作を確認するために図書館で本を借りてきたり、調査に出向くこともあります。

かわいらしい絵本を見つめてうーんと考え込んでいる姿は、事情を知らない人からしたら不思議かもしれませんが、「異なる表記の同一人をまとめて検索できる」「同じ表記の別人を分けて検索できる」という、典拠ファイルの2つの大きな役割に関わってくる業務なので、ここは悩んで悩みすぎることはありません。じっくり調査します。

ぱっと見難しそうな漢字表記よりも、簡単に見えるひらがな表記の方が神経をつかう。むしろ文字数や画数が少なければ少ないほど、ドキッとする、という典拠作成チームの心理でした。

これは欧文表記でもしばしば起こる問題です。漢字には時に苦労もさせられますが、こういうときには漢字表記のありがたみを感じます。

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