こんにちは。
典拠 小松です。
典拠ファイルの機能についてはこれまで、いろいろな説明をしてきました。(例えばこちら)
・異なる形で書かれていても一つの統一標目にまとめる
・同じ形で書かれていても、異なる人物なら別人として扱う
というものです。
この典拠ファイルの機能によって、新字旧字の違いや西洋人の日本語表記の違いに影響されずに同一の著者の著作をまとめて読んだり、多くの同姓同名の人物の中からお目当ての著者とその著作を探したりすることができます。
典拠ファイルの存在意義そのものですから、新規で作成する典拠ファイルと、既出のファイルの比較同定はとても大事な作業。新しく典拠ファイルを作成する際に一番最初にすることは、同名の典拠ファイルの有無を調べること。そして、もし同名の人物の典拠ファイルがあれば、同一人か別人かをよくよく確認することです。
この同定作業、ベテランの作業者でも、検索したり、問い合わせたり、考え込んだり...そうこうしているうちに小一時間経ってしまうこともある、手間暇のかかる作業です。
今回は、今まであまりご紹介してこなかった西洋人の同定作業を覗いていただきます。
9月末現在、TRCの個人名典拠ファイルは東洋人(11から始まる典拠ID)が74万4千件弱、西洋人(12から始まる典拠ID)が18万4千件強(いずれも統一形に限定した件数)。西洋人は東洋人の四分の一ほどと少なく、同姓同名が出てくる可能性は低いのですが、出てくるとなかなかの難敵になる場合が少なくありません。
架空の例でご説明してみます。
キャシー・スティーブンソンという著者が書いた絵本が入荷したとします。
勘のいい方はお気づきでしょう。
この一文だけで、「難しいかもしれない」ポイントが推測できます。
まずはジャンルです。
この「絵本」「児童書」は、実は典拠ファイルを作成する際に気をつかうことの多いジャンルです。著者紹介がないことが多く、場合によっては欧文表記すらない場合もあります。情報量が少ないということは、他と区別する手がかりが少ないということでもあるので、典拠ファイル作成にとっては致命的です。
そして、姓名のバリエーションの多さです。
姓についていえば、「田中」「佐藤」が多いように、スティーブンソンもとても多い姓です。そして、同じ綴りに対して多くの読みのバリエーションがあります。
とどめは名。「キャシー」というのは「キャサリン」などの愛称ですが、この「など」が味噌で「キャサリン」に類するきわめて多くの名前の愛称になっています。
キャサリンは、キリスト教の聖女カタリナに由来する女性の名ですが、その綴りはいろいろです。例えば英語圏のキャサリン(Catherine)、フランス語圏のカトリーヌ(Catherine)、ドイツ語圏のカテリーネ(Katherine)、ロシア語圏に至ってはエカテリーナ(Ekatherina)...などなどイニシャルからしてすでに違います。更に同じ言語の中でも綴り違いがあり、日本語の音訳も「キャスリン」「カスリーン」など無限のバリエーションが考えられます。
更に愛称です。本名がオーソドックスなCatherineだとしても、ケイト(Cate、Kate)、ケイティ(Katie、Katy)、キャシー(Cathy、Kathy)、キティ(Kitty)などを責任表示として使っている可能性が考えられます(愛称についての典拠班のつぶやきはこちら)。
データ部では、綴りのバリエーションを確認するためにこちらの参考資料を使用しています。
「カタカナから引く外国人名綴り方字典」
以前に「新・アルファベットで引く外国人よみ方字典」という綴りからヨミのバリエーションを確認する参考資料をご紹介しましたが、こちらはその姉妹編になります。典拠班ではどちらもよく使っています。
さて、こうしてバリエーションを確認したら、同定作業を進めます。
まずは、典拠ファイルに同一人の可能性があるファイルがあるか、漢字形(欧文表記)、カタカナ形(ヨミ、音訳)の両方から、いろいろな可能性を考えて丁寧に検索をします(実際の検索の様子はこちら。
今回の本は欧文表記がなかったと考えて、カタカナ形の検索もしていきます。
以下の検索は前方一致、ワカチのand検索です
Stevenson K
Stevenson C
スティーブンソン K
スティーブンソン C
スチーブンソン K
スチーブンソン C
スティーブンスン K
スティーブンスン C
スチーブンスン K
スチーブンスン C
スティーブンソン ケ
スティーブンソン キ
スチー.........
(検索システムによっては更に「スティーヴンソン」なども検索する必要があります)
息切れしつつ、どうにか検索を終えます。
この検索で「ケイティ・スティーブンソン」という絵本作家がヒットしたら、次は今回本を出した「キャシー・スティーブンソン」とすでに典拠ファイルのある「ケイティ・スティーブンソン」が別人、あるいは同一人であることを証明しなければいけません。
まず、参考資料類とWebで調査をします。日本や海外の出版社の著者紹介の他、最近は著者が公式サイトやSNSを公開していることも増えて、著者の前著や、国籍、出身地、生年など、識別の鍵になる情報が判明することが多くなってきています。
それと同時に米国議会図書館のOPACや「バーチャル国際典拠ファイル(VIAF)」(http://viaf.org/)を検索します。
このVIAF(私たちは「びあふ」と呼んでいます)は、国際的な共同プロジェクトで、各国の主要な図書館の典拠ファイルをマッチングして、つなげて表示するサイトです。ここでは、各国図書館が採用した標目、収集した情報を見ることができます。
今回は、出版社や本人のサイトには情報がなかったものの、VIAFの情報から「キャシー・スティーブンソン」は1972年生まれで本名はCathryn Stevenson、既出の「ケイティ・スティーブンソン」は本名がKatharine Stevenson、両者の著作に一致するタイトルはないことが判明。
スッキリと別人であることが証明できました。
新規で作成する典拠ファイルと、既出のファイルの比較同定はとても大事な作業。
メジャーな名前(日本人だったら田中実、佐藤博のような)を扱う時、心の中で「まぜるな危険」と唱えながら作業しているのは、私だけでしょうか...。
日本人の同定識別も何度かご紹介しているとおり一筋縄ではいかないものですが、西洋人の同定識別には、また独特の検索と調査の方法があるというご紹介でした。