今月から毎週金曜日にお届けしているMARC MANIAX典拠。第10回も前回にひき続き、人名典拠ファイルの記述形についてお話をいたします。
4月になって はや2週間。学校も新学期が始まりましたね。新しい教科書の匂い、懐かしいです。
ところで教科書といえば、典拠コントロールの仕事をしていると教科書に登場した人物が思いがけない名前で本を書いている、という出来事に遭遇することがあります。
日本史の授業で中世あたりにさしかかると、宗教とその開祖を習いました。臨済宗、日蓮宗、浄土真宗、浄土宗...それぞれを開いた人を答えなさい、なんていう試験問題もありました。では、このうち浄土宗を開いた人は誰でしょう。答えは法然。そう学校で教わった記憶があります。ちなみに、TRCでの統一標目も「法然」です。
先日のこと、「決定往生秘密義」という作品がやってきました。著者は「源空」と図書にあります。さっそく調査開始。人名事典をいろいろみていたところ「人物レファレンス事典 古代・中世編」(日外アソシエーツ)で「源空 → 法然」という参照を発見。ん...?法然って、昔習ったあの法然...?と、おもいつつ「コンサイス日本人名事典 第4版」(三省堂)で「法然」をひいてみると、なんと本文中に「名:源空」と記されているではありませんか。
そうです、「源空」は法然の別の名、つまりこの二つは同じ人物の名前だったのです。
法然に「法然」以外の名前があって、おまけにそちらの名前でも著作を残していたとは...恥ずかしながら私、このときまで知りませんでした。
さて、統一標目とは異なる漢字形で出てきたもの、これを記述形といいます。前回、長島茂雄と長嶋茂雄の例でお話ししました。(詳しくはこちら)長島さんの例にくらべるとだいぶ見た感じが違いますが、今回の「源空」も同じこと。人名典拠ファイルではこうなります。
11000087853-0000 法然 統一形
11000087853-0001 源空 記述形
注)典拠IDは見やすくするために-を入れてあります。
このように記述形となるものには、ぱっと見た感じが、統一形とずいぶん違うものもあります。日本人だと、明治時代以前の人名は要注意。一人の人物が使う名がたくさんあって(幼名とか本名とか通称とか号とか...)同じ人の別名だとは気づきにくいのです。たとえば、法然についても、先ほどの「コンサイス日本人名事典 第4版」には「源空」以外に5つ、「国書人名辞典」(岩波書店)にいたっては20近くの別名が載っています。うっかり別の人として統一標目を立ててしまわないように、慎重な調査が必要です。そのため明治時代以前の人名が出てくると、10種類近くの事典類を調査することに。おかげで分厚い人名事典を一度に5冊くらいは軽々持って歩ける(場合によっては走れる)ようになりました...。