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無いものはないので

データ部AS・伊藤です。主に和装本を担当しています。

前回まで見てきたとおり、和漢古書におけるタイトルと責任表示の情報源は、「標題紙、奥付、背、表紙」の4情報源ではなく、「巻頭,題簽,表紙」をもっとも優先される順位とする図書のさまざまな箇所ということになります。
ということで、明治以降の和装本でも和漢古書扱いするものはそのように処理すればいいのですが、しかし和漢古書扱いせず現代書として扱う場合、では情報源とするのはいわゆる「標題紙、奥付、背、表紙」の4情報源だ、ということでほんとうにいいのか、ちょっとここであえて考えてみたいと思います(なお、以下はすべてあくまで個人的な見解です)。

現代書の和装本の場合、4情報源にあたるものがどうなっているか考えると、以前書いたように厳密に学問的にはさておき、扉・見返しを標題紙と、題簽・表紙を表紙として扱って問題ないように思います。奥付も明治以降は現在のものに近くなり、書名が記されていることがスタンダードになってきます。
ということでこの3つについてはほぼ問題ないのですが、「背」についてはどうでしょう。以前書いたとおり、和装本の場合は造本としてそもそも「背」が存在しないのですから、「4情報源」と言われても最初から3情報源しか現実にはないわけです(背をくるんで綴じたものが無いわけではないのですが、その場合もそこに書名があることはほとんどありません)。
この3つより情報量の豊富で確実な情報源が無いのであればそれで仕方ないのですが、和装本の場合は多くの場合そんなことはありません。和漢古書以来の伝統を引き継いで、巻頭にしっかりと書名と著者が書かれていることが多いのです。そしてそれらが存在する場合、往々にして、その記述がタイトルや責任表示としてもっとも適切なかたちであったりします。さらには、印刷方法が現代のものであっても、巻頭にしかタイトルと責任表示がないという図書も決して珍しくはありません。

そういう実態があるわけなのですが、NCRでは現代書のタイトルと責任表示の情報源は「4情報源」に限定されてしまっています。結果、オンラインで見られるいろいろなデータベース等を見てみると、こうした和装現代書については作成者によって非常に対応が割れてしまっているようです。
巻頭にどんなに豊富で確実な情報があってもそれを無視して「3情報源」のほうから記述しているものもあれば、適切なものと判断されればやはり巻頭からタイトルや責任表示を採用しているものもあります。後者の場合やそもそも4情報源がない場合は、該当するもの全部に補記括弧をつけているものもあれば、補記括弧は使わずに「書名及び責任表示は巻頭による」と注記しているものもあり、また和装ということを記述していればある意味当然ということでとくに注記はしていないものもあるようです。

こうした状況については、日本の目録規則の規定において、現代書のタイトルと責任表示の情報源として、「標題紙(標題紙裏を含む)、奥付、背、表紙」としたあとに、「ただし、和装本など背の無いものについては背の代わりに巻頭を情報源とする」といった「ただし書き」があれば、それですべて問題なくおさまったのに、と思わないではありません。和装本は、何しろ背はそもそも存在しないのですから、こうした発想はきわめて自然なはずだと思うのですが。

現在、目録規則というもの自体が大きな転換期にあるものと思いますが、和装本をメインに扱ってきた者の視点からすると、正直、現行のNCRにはまだいくつか引っかかる点があるのは事実です。
上記のほかにも、たとえばそもそも刊行物と書写資料とで章が分かれているのも、AACRの構成を踏襲したものだとは思いますが、現実に存在している和漢古書の情況からすれば、両者はある種渾然一体としていますので、いささか使いにくいものである気がしています。刊行物と書写資料とで規定を別にするよりは、やはり現代書と和漢古書とで規定を別にするほうがむしろわかりよいように思われ、実際中国においては、大陸の『中国文献編目規則』(2005年第2版)でも「第4章:古籍」を「第2章:普通図書」と、台湾の『中國編目規則(1995年修訂)でも「第4章:善本」を「第2章:圖書」と別にして規定しています。
中世以来現在に至るまで基本的に同じスタイルで造本がなされてきている欧米に対し、日本も含まれる漢字文化圏においては、欧米とは別個に独自の書物の造りかたが発展してきていたという歴史的経緯があるわけですので、そうした和漢古書の扱いを考える上では、やはりこの方面への目配りも不可欠であろうかと思われます。

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