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広告はお宝―和漢古書の出版事項(6)

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回、NCRに準拠した目録記述においては、「刊・印・修」とは、出版事項というより、要するに刊本の書誌的来歴のことと理解してよいかと思う、と書きましたが、「刊」「印」については、実際には、NCRでは出版事項として記録できることになっています。
すなわち、2.4.3.1C(古)およびD(古)に「和古書,漢籍については,刊行年を「刊」という用語を付して記録する。情報源に「刊」の表示がない場合は角がっこに入れて記録する。」「和古書,漢籍については,刊行年とは別に印行年が判明した場合,「印」という用語を付して丸がっこに入れて付記する。印行年のみが判明した場合も,「印」という用語を付して記録する。情報源に「印」の表示がない場合は角がっこに入れて記録する。」とあります。
もちろん、「刊」か「印」かが確実に判明すればこのように記録したほうがよいですが、実際の判別はそう簡単でもないので、無理におしはかって付記する必要はありません。

また、情報源の表示の有無で書きかたを区別するのはいささかナンセンスかと思われます。現物に「刊行」とあっても実際には後印だというケースはいくらでもあり、ことに江戸時代初期のものだと刊記がないもの(無刊記本)のほうが時代的にふるく、「××年刊行」という刊記があるものは重刻本だったり後印本だったりします。
和漢古書は文言と実態が一対一で対応するような世界ではないので、現代書の感覚に引き寄せて解釈してしまうと、往々にして不適切なことになります。たとえば、和漢古書の「印行者」は多くの場合、もとの刊行者と別個であったり増減したりしているところの発行主体ですので、「印行年」というのも、現代書の何刷りとかいう場合の刷り年とか、オンデマンド出版における製作年とかとは、まったく意味合いが違います。

なお、上の条文で、「刊行年とは別に印行年が判明した場合,「印」という用語を付して丸がっこに入れて付記する。」として「寛政4△[1792]△[刊]△(文化5 △[1808]△[印])」という例をあげている規定については、このように記述することは実のところほぼないと言えます。というのは、出版者がまったく同じで刊行年と印行年とがともに記録できるということは非常にレアなケースで、たいていの場合、刊行時と印行時とでは出版者の変更や増減が生じるので、出版者と出版年の対応を求めている2.4.0.4(古)に照らせば、このように記述できること自体がまずありません。たいていのケースでは、この場合の刊行者・刊行年は、前回書いたように書誌的来歴の注記として記述することになります。

実際の状況としてよく目にするのは、刊記や版心、あるいは序跋などに刊行時の出版事項の記載があり、そしてさらに後印の際の印行者や印行年が記載された奥付がついている、というカタチでしょう。奥付に印行者に対応する印行年が―もちろん埋め木とかではなく―記されていればあまり勘違いすることはありませんが、それがない場合、印行者と、以前の刊行時の刊記(しばしば刊行者のみを削除していたりします)や序跋の年とを取り合わせて記述してしまうことがありがちですので、注意したいところです。

また印行者ということで記述にくふうが必要なものとして、巻末の出版書目や広告に記載されている版元があります。これについてはいくつかのケースが考えられますが、まず刊記・奥付がなく、出版目録・広告しかない場合があります(1)。この場合、特定できれば出版者はそれらから採用することになると思いますが、扱いとしてはやはり補記とすべきでしょうし、出版年との対応には注意が必要です(往々にして、序跋の年に刊行されたものそのものではなく、その後印というケースが多いです)。
逆に、書目・広告そのものが奥付と一体化していて、それ全体を奥付と見たほうがよい場合もあります(2)。この場合はとくに断りなく、ふつうの奥付として扱い、出版事項の情報源としてよいでしょう。
刊記・奥付があって、同時に出版目録や広告があるという場合、由来としては2種類考えられます。一つ目は、刊記・奥付の出版者によって刊行された時点で、そのときに同時に書目が附されていた、というパターン(3)。この場合、書目の版元は刊記・奥付の出版者と一致しますし、出版者が複数ある場合はそのうちの主版元であることが多いと思われます。
もう一つは、刊行時ではなく印行の時点で書目が附されたパターン(4)。さてこの場合、出版事項の記述としては、印行者として書目の版元を採用するか(4A)、刊記の出版者を採用し、書目は注記としておくか(4B)、これはどちらであっても間違いとは言えません。個人的には、書目の版元が刊記・奥付の出版者とまったく別個の場合は、書目の版元を採用します(4A)が、そうでなければ4Bの方針で処理することが多いです。情報量の多寡による、とも言えますが、いずれにしろ(3)と(4)の弁別もむつかしいですし、一概には言えません。

上の(2)の場合はともかく、こうした出版目録の類には年代の記載がないことも多いですが、場合によってはそれに記載されている書物から、おおよその年代の推定ができることもあります。これらのものは同じ版面が使いまわされていることも多いですが、豫顯(よけん)書目(刊行予定目録)などから未刊に終わった書物の情報が得られることなどもあり、仔細に調べれば、出版史研究の情報の宝庫と言えるでしょう。デジタル画像化がより進むと、研究者の方に資することが大だと思われます。

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