新年1回目の「典拠のはなし」は、干支にちなんで?記述形についてお話しします。
年末に恩師に年賀状を書いていて思い出したことがありました。
住所録にある恩師のお名前は「佐藤松」。でも年賀状の宛名は「佐藤松子先生」。説明してくださった恩師の口調が鮮明に蘇ります。
「なんか昔の人みたいよね。うちの父が頑固で『自分で松子と名乗るもんじゃない。他の人が敬って"子"をつけるものだ』っていってつけたらしいの」
落語や時代劇などで「お松さん」などよく聞くように、明治初期以前の女性の名前はだいたい2音節で構成されていました。
今やすこし古めかしい「子のつく名前」がメジャーになったのは明治も後半のこと。本名や出生時の名前は2音節でも、署名に「子」をつけたり、「子」のつくペンネームを使ったり、本名を改名したりした例もあったようです。
有名なところでは、今度5000円札の顔になる津田塾大学の創設者 津田梅子も、もともとの名前は「むめ」。40歳近くなってから「梅子」と改名したそうです。
上記の例のように、図書の著者として、同一人にもかかわらず「子」の有無のみが異なる表記がある場合は、MARC上のみでは複数の表記、例えば「津田梅子」と「津田梅」「津田むめ」を一度に検索することはできません。
ですが、それを可能にするのが典拠の仕組みです。
TRCの典拠ファイルは、統一形とそれに付随する記述形や参照形からなり、同一人の複数の名前(異名同人)を網羅的に検索ができるようにしています。
11000110806-0000 和辻/照
11000110806-0001 和辻/照子
近代以降の日本人の異名同人については原則として相互参照にしていますが、今回挙げた女性の名前の"子"の有無や、表記方法の違い(「梅子」と「うめこ」など)ほか、いくつかの小さな表記違いについては、統一形のもとに記述形として作成、まとめて検索できるようにしています。
さて、以前ブログでもご紹介したことがあるように、典拠の実務の中では統一形を「親」、記述形を「子」といったりもします。
こうした小さな(でも無視できない)表記の違いが増えていくにつれて、「親」には「子」がふえていくわけです。
「ネズミ(子)だけに、子だくさん」なんて、新年から無理やりなオチですみません。
異名同人についてはこちらの説明もどうぞ。