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2021年9月13日 アーカイブ

2021年9月13日

「折帖」補論(4)―2つの「折帖仕立て」

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回すこし横道に逸れましたが、「折帖」に話を戻します。前々回まで見てきたように、「折帖」と称される装丁には、実態としては三つの種類があり、名称とその意味内容とが必ずしも明確に定まってはいません。『日本古典籍書誌学辞典』で、両面のものと片面のものがあると説明されている「折帖仕立て」について、雑誌『書物學』で「書物の声を聞く―書誌学入門」という連載をされている慶應義塾大学斯道文庫の佐々木孝浩氏は、「紙を半分に折って糊付けして繋いでいく点は共通していても、この二種は構造的な差が大きく、名称を一括りにするのはかなり問題があるように思われる。(中略)区別の方法として、前者には「片面」を冠し、後者には「両面」を冠して呼び分けることも提唱されているが、あまり広まっているとは言いがたい」(『書物學』第8巻(勉誠出版2016)p43-44)と指摘しています。ということで、それぞれの装丁について、改めて考えてみたいと思います。

まず、『和書のさまざま』の「折帖仕立」と中野三敏氏の「画帖仕立て」は、『日本古典籍書誌学辞典』の「片面折帖仕立て」とおおむね同じもの、すなわち谷折りした紙の端裏どうしを糊付けして継ぎ重ねていったものを指すということで問題なさそうです。折本と区別した場合の狭義の「折帖」としては、この装丁のものを指すとするのが適切でしょう。
堀川貴司氏が『書誌学入門』(勉誠出版2010)で「画帖仕立(折帖) 一丁単位の谷折りした紙を用い、前の紙の末尾裏側と後の紙の冒頭裏側を糊付けしたもの。別の紙を裏から当てて糊付けした場合を除き、継目は完全に平らには開きません。見開きの一面単位で独立した画面であれば長く開く必要はないので、画帖に多く用いられます。」(p28・30)と説明しているのも、明きらかにこの装丁です。
なお、中野氏も言及している「法帖仕立て」という呼称は、書道の手本である「法帖」の装丁として折本が用いられることが多かったということで「折本の別称とされることが多い」(『日本古典籍書誌学辞典』p519)のですが、実際にはこの「片面折帖仕立て」の法帖も多く、藤井隆氏は「折帖仕立ての別称とする方が良いと思う」(『日本古典書誌学総説』p59)と述べています。いっぽうで、折本・折帖(片面折帖仕立て)のいずれにおいても、法帖以外のジャンルの本もそれなりにあります。といった具合ですので、「法帖仕立」を特定の装丁を指す呼称とはあえてしないほうがよいでしょう。

つぎに、『日本古典籍書誌学辞典』の「両面折帖仕立て」について。前述のとおり、国文研所蔵の「奈良絵豆扇面絵」がこの装丁ですが、中野氏の『書誌学談義』や堀川氏の『書誌学入門』には言及がありません。
他方、国文学研究資料館がWebで公開している「日本古典籍講習会テキスト」(2019)で「折帖 一定の大きさの厚紙を横に繋げ、継ぎ目部分で折って畳んだもの。手鑑や短冊帖などに見られる装訂。形態上は折本と似ているが、折本では料紙の継ぎ目と折り目が原則的に無関係な点で区別される。版本の例は未見。」(落合博志氏「講義2 装訂・料紙について」)としている「折帖」は、「横に繋げ、継ぎ目部分で折って」いるものということで、こちらを指すと思われます。
また、佐々木孝浩氏も、Webにアップロードされている「日本古典籍と付き合う」というワークショップ資料(2015)で、「折帖(おりじょう):折本の一種であるが、厚紙で作成したもので、巻子装に改めることができない装訂。両面を用いることができる。古筆短冊の手鑑など、絵や紙片などを貼込むのに用いられる。「折帖仕立て」とも。」と説明していますが、「両面を用いることができる」とあるので、明きらかに「片面折帖仕立て」のことではなく、こちらの装丁のことです。
「両面折帖仕立て」というのは、造りからすると確かにそうなのですが、実際に絵が描かれていたり貼り込みがあったりするのは片がわのみということもよくありますので、すこし誤解を招くかもしれません。実のところ、「片面折帖仕立て」(折帖)とは違って、表と裏両方使用できるという点からすると、『総説』に「完成したものは全く普通の折本と同様の形と扱いとなり」とあるとおり、通常の折本と変わらないわけで、いろいろな冊子目録やデータベースに「折本」と記録されている資料のうちには、この「両面折帖仕立て」の装丁のものが相当な割合で存在していると思われます。もっとも、これは「片面折帖仕立て」の場合も同様で、そもそも『辞典』に「折本の一形態」とあるように、「折帖」は広義の折本に含まれるという立場からすれば、誤りとも言いきれません。
実際、池上幸二郎・倉田文夫著『本のつくり方』(主婦と生活社1979)という本には、「折本仕立ては、経文や画譜、習字の手本などに多く見られます。紙を張って巻物にした物を、必要な寸法に折って仕立てる、一般的な折本のほかに、本の寸法の倍に裁った紙を、二つ折りにして張り合わせる糊入れ画帖、二つ折りにした本文の、折り山と小口の側の交互に組み合わせて糊づけした、画帖仕立ての折本などがあります。」(p52)といった記述があります。通常の折本とは区別したいということであれば、これなどを参考に、この装丁のものは「折本(画帖仕立)」というぐあいに記録しておく、というのが無難なところかなと思います。

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