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「折帖」補論(3)―中野三敏氏の説明

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回、国文学研究資料館編『和書のさまざま』の説明を見ましたが、2019年の11月に亡くなられた中野三敏氏は、『書誌学談義―江戸の板本』(岩波書店1995)の第四章「装訂」で、「帖仕立て」という節を設けて、「帖仕立ては元来、巻物を巻く代りに、何がしかの幅をきめて折り畳み、最後に表紙をつけて製本するものを言う」と定義し、「板本の帖仕立て形式は要するに糸綴じをしないということを条件として、(イ)に折帖仕立て、(ロ)に画帖仕立て、(ハ)に包背装仕立ての三種を考えればよかろう」(p74)と書かれています。

最初の「折帖仕立て」については、「帖仕立ての最も基本的なもので、元来が仏典・経文などには極めて多いが、特に書道の法帖などに多いため、「法帖仕立て」の称もある」とあり、あげておられる例からすると、いわゆる折本のことのみを指しているようです。
つぎの「画帖仕立て」については、「これは紙を折り畳んだものではなく、粘葉装の製法を応用したと思われるもので、摺刷された本文用紙を中表(なかおもて)に―即ち印刷面を内側に―折り、それを重ね、印刷されていない面の両端に糊をつけて貼り合わせ、最後に折帖仕立てと同じように前後に厚手の表紙か板表紙をつけたものである。画帖類に専ら用いるので「画帖仕立て」と称するのが良かろう」と説明されており、谷折りした紙の背面の端どうしを糊で貼り合わせるということなので、『辞典』の「片面折帖仕立て」と基本的に同じものを指すと見てよいようです。

三つ目の「包背装仕立て」ですが、ふつう「包背装」というと、袋とじにした紙を重ねて糸や紙縒りで綴じたものを、折り目と反対がわから一枚の紙でくるんだ「包み表紙(くるみ表紙)」のものを言いますが、中野氏は「唐本としては比較的多い装訂である。要するに下とじをした粘葉装という感じであろう。」とした上で、「しかし和本の版本でこうした姿の物は五山版にはあるが江戸期に入ってからは殆どなく(中略)若干違った説明が必要である。簡単に言えば、中身は前項の画帖仕立てで即ち中表に折ったものと重ねて表紙だけを右の説明通りのくるみ表紙にしたものといえよう。即ち、前後各々個立した厚手の表紙をつければ画帖仕立て、殆ど本文と共紙とも言えるような表紙で背中からくるんだものが包背装と思えばよい。」と書かれています。この説明によれば、「画帖仕立て」にあたるものを表紙で背を包んだものということですから、この「包背装仕立て」は、『和書のさまざま』の「画帖装」にあたるということになります。
ただ、「画帖仕立て」のほうは谷折りした紙どうしの裏がわの両端を糊付けするのに対し、ここで「いずれも画帖仕立てもあれば、ここにいう包背装のものもある」好例としてあげられている『十竹齋書畫譜』や『芥子園畫傳』といった図書の実物を見てみると、これらは、谷折りして重ねた紙の折り目を、背中からくるんだ紙に糊付けするという、むしろ洋装本に似た構造がその基本になっています。こうしたものではほんらい、紙の折り目すなわち版心(書口)のほうを糊付けし、端のほうは糊付けしていないので、丁を繰るごとに印刷面とその裏面とが交互に出てくることになるのですが、両端どうしをすこし糊づけして袋状にするという「二枚ずつ撥ねる不便を除かうとして考案された一便法」(田中敬著『粘葉考』(巖松堂書店古典部1932)七)がしばしばとられているために、上記のような、「画帖仕立て」にあたるものを表紙で背中からくるんだものという説明が成り立ちうることになっていると考えられます。

こうしたものを、「帖仕立て」の一種として扱うのは、必ずしも一般的ではないと思いますが、「帖」というターム自体に、意味・用法が複数あるということが、こうした扱いの背景としてあるかもしれません。すなわち、「帖」のメインの意味としては、「料紙の端から一定の幅に折り畳み、前後に表紙を付けた装訂による書物を総じて呼ぶ名称。帖装・帖装本ともいう。折本の別称とするのが一般的である」(『日本古典籍書誌学辞典』p291)ということなのですが、折本・旋風葉および時には粘葉装・列帖装の冊子を数えるときの単位としても「帖」が用いられるということがあります。また、以前にも触れたように、「列帖装」という装丁の名称は、重ねた紙を一くくりにした「折り」を「帖」の単位で数え、それを列ねたものということからくる呼称だったりします。

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