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やまとごころ?―和漢古書の出版事項(13)

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回、和漢古書の出版年の表記についていろいろ見てきましたが、情報源にあっても、それらを出版年として記録してよいかは、これまで述べてきたようにまた別の問題となります。前述したように、あくまで、記録した出版者と対応するものを、出版年として採用しなければなりません。
時々、刊記や奥付にある出版年より新しい序跋の年があったりするものもあります。ここらが和漢古書の自由自在なところで、刊記や奥付ができたあとで急遽序跋を書いてもらってそれを附けて出版したり、後印の際にしれっと新しい序跋をつけたりしているのです。後者の場合は、序跋の年に後印したものとして記録し、刊記等の情報は書誌的来歴の注記に入れることになると思いますが、情報源の年記と序跋の年とが一二年くらいしか違わない場合は、情報源の出版者・出版年を出版事項として記録し、序跋については「○○年序あり」などと注記しておいたほうが、出版事項として記録できる情報量の多寡からしてもよいように思います。

なお、序跋(叙・題辞・題言・引言・緒言・前言・凡例・例言・提要・後語・書後・後序などを含む)の年を出版事項に記録する場合も、それはあくまで出版年を推定できるものと見なされる範囲において記録するのであって、無原則に採用してはなりません。内容の成立年と出版年/書写年というのはあくまで別ものですので、同一視したり混同したりしないように気をつけましょう(ただ、写本の場合は、書写年の上限がわかるという点で、最新の序跋の年を注記しておくこと自体は悪くないと思います)。
とくに、日本では文録年間、中国では元以前の序跋の年は、図書自体がふるい時代のものという確証がないかぎり、出版年としては原則として記録しないほうがよいでしょう。

序跋においては、年月日は当然その文末に書かれていることが多く、漢文の序跋の場合、最後のほうで「于時~」とか「維時~」とか「旹~」とか出てきたら、だいたいそのあたりから年月日が書かれています。表記自体は、他の情報源の場合と基本的に変わらず、例の歳陰歳陽を書いている場合もあります。
和書、とくに国学関係の本などでは、こちらはこちらでまた凝った書きかたをしている場合があります。うねうねと和文を書きつらねた後で堅苦しく漢字の元号を書くのもおもしろくないのか、「ゆたけきまつりごとのはじめのとし」(=寛政元年)、「あきらかにおさまる七ツの春」(=明治7年春)などと大和言葉に言い換えていることがあるのです。「天の保つといふとしの十とせまり二とせの葉月」云々とあれば、天保12年の8月ということになります。前後の文章に埋没していることもよくありますので、見落とさないようにしましょう。

情報源には「御免」とか「免許」といった年が記されている場合もあります。出版許可が出た年ということで、実際の版年の直前であることが多いですが、数年間隔が空いていることもあります。明治前半の図書には「版権免許」の年が入っているものをよく見ますが、著作権年とはやはりまた別ですので、同じようには扱えないでしょうが、目録規則にまったく規定がないのも、ほんとうはどうかと思います。

出版年が確定できなければ、おおよその出版年代を推定して入れます。その年号の時代であることが確かならば「[光緒中]」などと、多少の前後も含むなら「[文政頃]」などと、ある年号からある年号のあいだであることが確かであれば「[嘉慶道光間]」などと記録します。といって、さすがに「[慶長慶應間]」などという書きかたはしません。
江戸時代の資料であれば、「[江戸前期]」「[江戸中期]」「[江戸後期]」くらいまでは、推定がつけば入れたいところです。この場合、時期の境界をどこに置くかは人によって多少違いますが、おおむね「元禄」(1688~1704)および「寛政」(1789~1801)の前後のあたりを境界とすることが通例です。コード処理上、西暦の世紀の変わり目でいうことにしてもよいかもしれません。「[江戸初期]」「[江戸末期]」なども使う人もいます。なお、漢籍(唐本)の場合は「[明末]」「[清末]」と言った書きかたもあります。
また、年代は特定できないが幕末から明治にかけての頃に刷られたものというのもよく目にしますので、それらは不明としたりせず「[幕末明治期]」などとしておいたほうがよいでしょう。
しかし、推定がつかない場合は無理をせず、おとなしく「[出版年不明]」「[書写年不明]」としておきましょう。

次回、最後に書写資料のことについて一言書いておこうと思いますが、さしあたり出版事項については以上ということにしたいと思います。ということで、「たひらかになれりといへるひのえさるのとしのなが月のふつかにしるしおきぬ」。

コメント (2)

目録迷子:

いつも参考にさせていただいております。

初冊が序で終わるものなど、序、序、序・・・とあるものは、注記に記録する場合、自序のみの記録でよいでしょうか。
NCの書誌を見ているとすべての序を記録している書誌を見ますが、スマートでない気がします。
どう記録するのが良いでしょうか。

(版式について、基本本文の記録で良いというのもこのブログで学びました。ありがとうございました。)

AS 伊藤:

まず前提として、NCRでは「タイトルと責任表示」「出版事項」の情報源として序跋が規定されていますので、これらにかんして必要な場合、序跋について注記しますが、序跋そのものについて記録することにかんしては何ら規定はなく、NCRに準拠しているかぎりにおいては記録自体不必要です。
その上でのことではありますが、伝統的な冊子目録やデータシートでは序跋そのものについて記録するようにしていることも多く、確かに手元の本がどういう実態のものかということを伝える上では重要な情報と言えます。NCで「すべての序を記録している書誌」というのは、そうした意味合いによるものでしょう。

記録するとした場合、あまりに数が多い時どうするかについてですが、そもそも序跋にどういった種類があるか考えると、1)自序・自跋 2)二次的な関与者(編纂者・注釈者・訓点者など)によるもの 3)刊行の経緯にかんするもの 4)題辞など、著名人や関係者が寄せたもの 5)過去に刊行・書写された際の序跋をそのまま収録したもの という具合になるかと思います。選んで記録するのであれば、1)はもとより、2)3)も対象とすべきでしょう。4)や5)は、そういう意味ではあまり記録する重要性はありません(特に5)はちょっと意味合いが違います)。
ただ、序跋がそれぞれどれに当たるかを判断するのも実際にはむつかしいかもしれません。そうなると、どんなに多くともとりあえず全部記録しておくということにしておいたほうが、一つ一つ判断する必要はないということにはなります。

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