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2017年6月12日

横置きVS縦置き-和漢古書の保管容器(1)

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

昨年8月、「和装本の置き方」についての記事がありました。あの写真のような「専用棚」が作れれば実のところ一番よいのですが、といってなかなかスペースや時間・経費を確保するのもむつかしいかと思いますので、今年度はまずこれをうけて、和装本の置き方と「容器」についていくつか書いてみようと思います。

この記事にあるとおり、和装本はほんらい横にして置かれるべきものであり、だからこそ「小口書(こぐちがき)」というものが施されていることがふつうでした。現実問題として、洋装本のような「背」の無い糸綴じ本を直立させて縦置きするのは、なかなかむつかしいものがあります。
もっとも、中国と日本とでは多少情況が違っていまして、中国の古書すなわち唐本では、表紙も本文と同じ軟らかい紙(竹の繊維を原料とした「竹紙(ちくし)」が一般的)であることが多く、立てることはまず不可能です。これに対し、和本の場合は、和紙自体中国のものよりしっかりしていますし、ちゃんとした本だと、表紙・裏表紙は本文と異なった堅牢な紙を用いている場合がすくなくありません。そうした場合、表紙の内がわには反古紙などを貼りあわせて芯紙としたりしていることも多く、あまり薄い本だとむつかしいものの、縦置きしてみると案外ちゃんと立ったりします。
ちなみに、伝統中国の文人が図書を手に持つ場合、わたしたちが今日の薄手の雑誌でやるように、くるくるっと筒状にして握って持ち運ぶというのがふつうだったそうですが、固い表紙のある和本ではまず無理な話ですね。

しかしまあそうは言っても、そうした表紙のない和本も多いですし、やはり平積みにして置くのが「正しい」置き方です。しかし、本にあわせてあの写真のような「棚板」を作るのは現実的にはむつかしいと思いますので、既製品の書棚に何タイトルずつかを積み重ねて置いておくというのが、横置きされている図書館でもふつうでしょうし、それでじゅうぶんと言えます。
もっともこのやり方では、一つ問題が生じます。何かと言うと、積み重ねた一番上の本の表紙にどうしても書庫内の埃が積もってしまうことです。よくセットものの和装本で、第一冊目の表紙だけが汚く黒ずんでしまっているものを目にしますが、これはセット単位で平積みされていたことの名残りというわけですね。
このことを防ぐには、本自体を何らかの容器に入れておくか、あるいは積み重ねた本の上に半紙か何かを一枚載せておくという対処法が、単純ながら効果的です。

ただ、横置きだとどうしても縦置きの場合よりはスペースを食ってしまいますので、限りあるスペースを有効に使うことを考えると、やはりどうにかして縦置きしたいところです。そこで和装本の場合に効果を発揮する容器が「帙(ちつ)」です(ふつうのIMEに初期登録されていないのでよく誤入力されますが、「秩」ではありません)。
長澤規矩也氏の『図書学辞典』には「古書を保護する目的で、数冊をまとめてくるむもの。古くは袠と書いた。今日の帙は、ボール紙を芯として、まず紙を張り、普通は、外面に紺色の綿布を張る」と簡にして要を得た説明があり、ネットで「帙」と検索すれば、まさにこうした画像を見ることができます。もっとも、色はもちろん紺とは限りませんし、一冊だけ収めるものを作る場合もふつうにあります。
形状的には、縦置きした場合の側面をすっぽり覆う「無双帙(むそうちつ)」が標準ですが、上等なものとして立てた時の天地をも覆う「四方帙(しほうちつ)」というものもあります。いずれにしろ帙は、本それぞれの大きさや冊数分の厚みにしたがって作るオーダーメイドのものですので、やはり専門の業者さんに頼むのが一般的です。

帙の利点は縦置きして置けるので省スペースになるというだけでなく、ただ平積みして置いている場合のように埃を直接かぶることもありませんし、帙に収めれば図書本体に触れることなく持ち運んだりできるので、純粋に保存の点からも推奨されます。
また、横置きだと、先の記事にもありましたが、書名を示すのに小口に1冊ずつ書入れをしたり、下げ札を挟んだりする必要があるのに対し、帙に収納しておけば、帙の背や表紙に題簽を貼って書名を書くことができます。こうしておけば、書架上において洋装本とほとんど同様に扱うことができます。

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