こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。
前々回と前回、人名録について書きましたが、人名にかんする書物ということで言うと、系図・系譜の類などもあげられます。
日本では、家格というものによって例えば公家では昇進できる位階がきまっているとか、また武士でもたいてい源平藤橘のどれかを本姓として称するとか、また家業・家職として一族が代々官職を継承していくことが多いなど、先祖からのつながりや先例が重視されるので、それらを証しする系図・系譜も多く作られました。もっとも、養子とかも盛んにされているわけなので、必ずしも血統重視ということでもないようですが。
系譜関係の歴史書で主要なものをあげると、古代の氏族について出自を「皇別」「神別」「諸蕃」に分類して記録した『新撰姓氏録(しんせんしょうじろく)』(815年)、南北朝時代にそれまでの系図類を集成・編纂した『尊卑分脈(そんぴぶんみゃく)』(14世紀後半)、神代以来の皇室の系図である『本朝皇胤紹運録(ほんちょうこういんじょううんろく)』(1426年)、新井白石による諸大名の家伝『藩翰譜(はんかんぷ)』(1702年)、江戸幕府によって公式に編纂された大名・旗本の家譜集である『寛政重修諸家譜(かんせいちょうしゅうしょかふ)』(1812年)といったものがあります。
このうち『尊卑分脈』は、洞院公定(とういん・きんさだ)という公家による編ですが、原形ができてからも洞院家の子孫による増補改訂がつづいたため、諸本で異同や配列の相違が多くあると言います。刊本には、いずれも江戸時代前期の刊行である、外題を「新板大系図」とする30巻本と「諸家大系図」とする14巻本とがあります。前者の第1巻巻頭ほかには書名や責任表示がなく、正式名称である「新編纂圖本朝尊卑分脈系譜雜類要集」というのは第3巻の巻頭にあります。後者は「編纂本朝尊卑分脉圖」という内題を有しますが、これがそもそもほんとうに書物全体を指すタイトルなのかは微妙かもしれません。
中国や朝鮮半島における系譜関係の特徴的な書物としては、「族譜」というものがあります。これは、父系による血縁集団である「宗族(そうぞく)」の世系を記したもので、主要部分は、家系図のように人物名を線で結んだものではなく、5段を基本とする表形式になっています。以前触れた、世代で共通する輩行字というのもこれで見やすくなるわけですね。
もちろん発祥の地である中国でもたくさん作成されていますが、とくに朝鮮半島では近世から近代にかけて盛んに作られ、韓国の大田(テジョン)には「族譜博物館」なるものまで存在しているそうです。