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2022年12月16日

「大坂;江戸;京;浪華」?―和漢古書の奥付(補遺3)

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前々回前回、和漢古書の奥付について、現代では考えられない「奥付の使いまわし」という事態について書きました。和漢古書の奥付にかんしては、その他にも「これはどうしたらいいのだろう」「これはどういうことだろう」と首をひねるようなものに出くわすことがままあります。

以前見たように、江戸中期から共同刊行のケースというのは増えてきて、奥付に複数の書肆が列記されているものはよくあります。出版地が複数個所の場合、「江戸 須原屋茂兵衛 /須原屋伊八/大坂 河内屋喜兵衛/河内屋茂兵衛/京都 村上勘兵衛」といったように、出版地の記載は、それぞれの出版地の最初の出版者の真上の行にあって、2番目以下は記載を省略したりしていたり、「同」とあったりするのがふつうです。あるいは、その出版地の複数列記されている出版者のちょうど中央にあたる位置の上のあたりに「東都書林」「浪華書林」「平安書林」などと彫られているような具合にしているものもよくあります。
ところが時々、別表記の同一の出版地が、別の出版地をまたいで挟んでいるような具合になっている奥付があります。例えば、これは時々目にする「使いまわし用の奥付」なのですが、「書林/江戸日本橋通一丁目 須原屋茂兵衛/同淺草茅町二丁目 須原屋伊八/大坂心齋橋通り 河内屋喜兵衛/東都淺草廣小路 淺倉屋久兵衛梓」というふうになっているものがあります。最後の淺倉屋の記載は明きらかに埋め木されており、もとは大阪か京都の書肆があったのを改刻したのだろうと推測がつきますが、さてこれについてNCRをベースにしたシステムで目録作成しようとすると、どうすればよいでしょうか。TRC MARCであれば、出版地と出版者とが対になってくりかえされるので問題はありませんが、NACSIS-CATの場合は、同一の出版地のものは区切り記号を用いて同一行に記録するという規則ですので、「東都 : 淺倉屋久兵衛」「大坂 : 河内屋喜兵衛」「江戸 : 須原屋伊八 : 須原屋茂兵衛」と3行で記録するのか、「東都 : 淺倉屋久兵衛 : 須原屋伊八 : 須原屋茂兵衛」「大坂 : 河内屋喜兵衛」と2行で記録するのか、どちらがよいのか迷ってしまいます。
というか迷うも何も、そもそもこんなケースは規則で想定されていないと思われますので、どちらかでないとダメだとか言いようもないですね。このほか浄瑠璃本で、「西澤九葉軒」や「山本九菓亭」といった「浪華」の版元と「大坂」の版元とが、京と江戸の版元を間に挟んで両端に記されているものなどもよく見ます。

こうした記載になっている経緯としては、もちろん、書肆を追加したり、上の淺倉屋の例のように1書肆だけ改めたりする必要があった場合に、必要な部分だけ彫り直したということで、奥付全体を作り直す手間をかけず、すこしでも費用を節約したいという純経済的動機によるものと推測できます。
なお、書肆を追加したいというときの対処法としては、そう多くは見ない例ではありますが、スタンプのようなものを作ってそれを捺す、といった処理で切り抜けているような場合もあります。天明5年刊の江村北海著『樂府類觧』という本は、もともと「天明五年乙巳九月 平安書肆 西堀川佛光寺下ル町 吉村吉左衛門 二條栁場場東江入町 林伊兵衛」という奥付が付されていますが、これの後印本で、「二條麩屋町東江入町 林宗兵衛」という版元名が吉村氏の前の行の空きスペースに黒印で捺されているものを見たことがあります。埋め木より手軽そうですが、いかにもその場しのぎ的な印象で、ちょうど現代の本で、奥付をシールで訂正したりしているのと似た雰囲気と言えるかもしれません。

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