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整本と剪装本 ― 和漢古書の法帖の書誌(その1)

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

和漢古書の目録作成において、対象に書道手本が含まれていることも時々あります。この書道手本については、他の和漢古書にはあまりない特徴と注意点がありますので、すこし整理しておきたいと思います。

古今の名筆・大家の手跡を紙に摺刷し、本のかたちに仕立てた書道手本のことを「法帖(ほうじょう)」と呼びます。「法」はこの場合「のっとる」と訓じ、規範とすべき手本という意味です。
こうした書道手本としては、もちろん通常の冊子体であるものもふつうに存在しますが、典型的な形態としては、折本折帖(片面折帖仕立)であることが多いです。実際、「法帖仕立」という呼称は折本もしくは折帖の別称として使われることは以前見ました。
「折本」「折帖」は、「冊」ではなく「帖」で数え、形態にかんする注記の位置に「折本」「折帖」と記述します。折本か折帖かで意味合いや取り扱い方が違うといったことはありませんが、縦の長さが横の長さの2倍以上ある縦長本であることも多く、そうしたものは大きさを縦×横で記録します。また、通常の図書にあまり見られないものとして、表紙が厚紙ではなく木の板で作られているものもあります。書物自体の堅牢性が要求されるがゆえのものですが、こうしたものは「板表紙」と注記しておいたほうがよいでしょう。

「折本」「折帖」は、いずれにしろ本のかたちに仕立てたものですが、手本となるオリジナルは、個人の書翰だったり、石碑の拓本だったりします。基本的にそうしたものを石や木に彫り直し、そうして作った版をもとに印刷しているわけですが、碑文の場合は拓本をとったそのものを、適宜の字数で改行したかたちに切り貼りして本にしているものもあります。
もちろん、そうした切り貼りをせず、継ぎ合わせた紙に碑文全体を摺りとった一枚物もあり、そのような碑文や摩崖(まがい)文(自然の崖などに文字を彫り付けたもの)を拓本にとったものを一枚物として仕立てたものを、「全套本(ぜんとうぼん)」あるいは「整紙本(せいしぼん)」「整本(せいほん)」(現代中国語で「整」は「全部」の意味)と呼びます。こうしたものについては、「一枚物」と注記するよりは、「全套本」といったタームを使ったほうがよいかもしれません。なお、これに対し、切り貼りして折本や冊子に仕立てたものについては「剪装本(せんそうぼん)」と言い方をします。

こうした整本や剪装本のおおもとである石碑は、基本的に形式が決まっており、碑の名称を刻した上部(碑首(ひしゅ))・本文を記した中央部(碑身(ひしん))・全体を支える台座(碑座(ひざ))の3つの部分から成ります。碑首は半円や三角の形になっているものもあり、中央に「穿(せん)」と呼ばれる丸い穴があけられているものもあります。この碑首に記された題目を「題額(だいがく)」あるいは「碑額(ひがく)」と言い、また多くの場合篆書で刻されているので「篆額(てんがく)」とも言います。もちろん、本文の冒頭にタイトルが書かれている場合もありますが、この題額の名称が最も正式なタイトルになるというケースも少なくありません。ですが拓本(とくに剪装本)の場合、碑身の本文だけを写し取ったものも多く、この碑首や、しばしば建立の経緯などが書かれている碑の裏側(碑陰(ひいん))や側面(碑側(ひそく))が略されていることもけっこうあります。

なお、「碣(けつ)」というのも基本的に碑と同じものですが、長尾雨山氏の「碑帖概論」という講演(『中國書畫話』(筑摩書房1965)所収)によれば、ほんらいは「碑」は五品という官級より上の人、「碣」はそれより下の人の功徳を称えたもので、石碑の形自体もすこし違うのだそうです。ただ、後代にはそのあたりの区分は厳密ではなくなり、「神道碑(しんとうひ)」(墓所の通り道の脇の碑)といっても無位無官の人のものだったりすることもふつうにあるということです。

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