こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。
以前、「一枚物」「畳物」の資料について書きました。これらには表や系図など文字が主体のものもあり、そうした中でもことに「番付」は非常に日本的な資料と言えます。もちろん、今でもおなじみの相撲番付がベースであるわけですが、温泉や名所、諸国名産や料理、学者から花魁(おいらん)まで、ありとあらゆるものを、誰が大関だ何が前頭筆頭だとランク付けした一枚物が結構な量で残されています。現在でもテレビや雑誌で何かと言うとしょっちゅうランキング企画をやっていますが、これはもう江戸時代以来、日本人のDNAに深く刷り込まれているもののようです。
役者のランキングも数多くありますが、「芝居番付」というのはそうしたいわゆる「見立番付」とは別の性格のもので、配役やプログラムなどを記したちらしや小冊子のことです。歌舞伎の興行に際してはそうした「番付」がいろいろ発行されており、「顔見世番付」「辻番付」「役割番付」「絵本番付」といった具合に分類されますが、それらは上演史などの研究に不可欠なものになっています。
最後の「絵本番付」は、各幕の主要場面を絵で表した十丁ほどの中本(ちゅうほん)の小冊子で、「狂言絵尽」とか「芝居絵本」とか呼ばれたりもします。そもそもとしては草双紙類の一種として登場したものですが、筋の流れを示すものではなく、各幕の見せ場を配役つきで並べたもので、その意味において「絵による番付」と位置づけられる、ということになります。
芝居番付は、江戸と上方とでは形状・内容がそれぞれすこし異なり、上方の「絵本番付」は、もっぱら「絵尽し(えずくし)」と呼ぶ慣習になっています。ただ、「絵尽し」というと、菱川師宣(ひしかわ・もろのぶ)の『美人絵尽し』など、一定の主題による絵本類の呼称だったりもするので、注意が必要です。
芝居番付については、作者が判明することはほぼありませんが、絵本番付の画者があった場合は記録しておくべきでしょう。なお、番付は作品そのものではないので、記載されている狂言作者は、ほんらいは著者として記録しないほうが論理的には正しいでしょうが、検索の便を考えてそのように記録するというのもアリかとは思います。主要な役者や浄瑠璃の太夫なども同様に記録しておいてもよいかもしれません。
役割番付(紋番付)や絵本番付では、表紙や巻末に座元や版元、公演年月日が記されており、それらの情報は出版事項や注記に記録します。もっとも、何座ということは座紋(マーク)で示されていることもよくあります。また、古めのものは公演年月日が明記されていないことも多いですので、伊原敏郎著『歌舞伎年表』といった資料で確認して補記しておいたほうがよいでしょう。立命館大学アートリサーチセンターのデータベースも非常に内容が充実していますが、専門に特化した作りですので、慣れていない者からするとちょっと使いにくいかもしれません。
なお、これらの芝居番付は後人が合綴した冊子のかたちで残されていることもしばしばありますが、そうなると何十もの内容著作についてそれぞれの情報を記録しなければならなくなり、結構たいへんなことになったりします。。。
人形浄瑠璃でも歌舞伎に準じたかたちのものが作られましたが、歌舞伎のようにスター役者の姿かたちを観客に見せる必要もないためか、「顔見世番付」といったものはなく、大半は文字だけの「役割番付」です。丸本の見返しや巻末に「役人替名」とか「役割付」とかが付されている版本もよく見ます。なお、能・狂言においては、配役を記したものは「番付」ではなく「番組」と称されるということです。