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つばさのたすけ ― 和漢古書の書名の漢字:「翼」「釋」「解」

前回、「注」「箋」について見ましたが、「」のところで見たように、「翼」というのも「たすけ」ということで「注」と同じように使われます。『孝経翼』『宋史翼』『傷寒論翼』といった漢籍がありますが、とくに明の焦竑(しょう・こう)の『老荘翼』(老子翼6巻・荘子翼11巻)は、承應年間に訓点を付された和刻本も出版されており、しばしば目にします(明治から大正にかけて刊行された冨山房の『漢文大系』にも活字にしたものが収録されています)。
和古書で「翼」の字を書名に使ったもので有名なものとしては、これも『漢文大系』に収録されている太田全斎(おおた・ぜんさい)の『韓非子翼毳(かんぴしよくぜい)』という書物があります。これは、太田氏が赤貧洗うがごときなかで購入した木活字を使って、一家総動員で足りない字を補作し、数十年の辛苦の末ようやく20部を刊行したと跋に述べられているもので、前近代における「韓非子」の精密な注釈書として、日本のみならず中国でも高く評価されています。
ただ「翼毳」の「翼」については、自序には「翼トハ鳥ノ羽翼ノ如ク、左右其ノ義ヲ成スヲ言フ。」という意味だというふうに記している一方、『説文』に「獸細毛也」とある「毳」のほうは、序文によれば増やしても取り去っても飛ぶのには影響のない「鳥ノ腹毛」のことだということで、本筋には関係ない細かいところまでとにかく調べたということを言いたいようです。

注釈・注解ということでは、もちろん「釈」「解」の文字も使われます。どちらも「ときほぐす」といった意味を持つ字で、「注釈」「注解」というほかにも、「新釈」「集釈」「音釈」や「詳解」「集解」「字解」などといった書名のものがたくさんあります。
「釈(釋)」については「訳(譯)」と見間違えやすいので注意しましょう。また、役割表示になることもありますが、この字が名前の前にある場合は、以前見た通り、僧侶であることを示します。書名でも「釈氏~」「釈論~」などとあるものは仏教関係のものですが、『釈日本紀(しゃくにほんぎ)』は「『日本書紀』を注釈した本」です。また「釈誨」「釈辞」「釈茶」といった「釈〇」というのは、論弁の文体の一つでもあります。

「解(觧)」については、一般には漢音で「かい」と読まれますが、仏教書や『令義解(りょうのぎげ)』『令集解(りょうのしゅうげ)』など一部の書では呉音で「げ」と読まれます。また、「諺解(げんかい)」というと漢籍にハングル(諺文)でつけた注解、「和解(わげ)」あるいは「国字解(こくじかい)」というと漢籍に日本語でつけた注解ということで、こうした場合にはもっぱら「解」の字が使われています。このほか、子供向きにわかりやすく解説したというものは「児解」「蒙解」といったタイトルをつけていたりします。
図書の内容・成立などにかんする説明・解説である「解題」は、「題目・主題を解説する」ということで、現代でも使われますが、仏書などでは「開題」という表記もされます。ただし、「開題」は「前書き(題言)」の意味で用いられていることもあります(『図書学辞典』p101)。
「解嘲(かいとう)」は、以前触れた揚雄の書いた文章を元祖とするもので、「あざけりをとく」ということで「非難に対する弁明」という意味ですが、ちゃかしたりけむにまいたり、という性格が強いものです。
また、「解頤(かいい)」というのは「おとがいをとく」と訓じ、「あごがはずれるほど笑う」ユーモラスな笑話集や咄本(はなしぼん)などのタイトルに使われます。もっとも、大典(だいてん)禅師の『唐詩解頤』などは、別に笑わせる要素はないので、これらの場合は、感心する・得心がいくといった意味なのかなと思います。

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