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文字通りの「小説」は―四部分類とNDC

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回、漢籍の四部分類について書いてみました。時々、四部分類からNDCへ、あるいはNDCから四部分類への機械的な変換テーブルとか作れないかな、と思うこともあるのですが、やはり根本的な分類思想が違っているので、どうもむつかしいかもしれません。あるいは、いま世に出回っている本をことごとく四部分類で分類してみたら、と変な妄想をしてみたりもするのですが、思いっきりバランスの悪い構成になることは間違いありません。

著名な漢籍でも、NDCで分類するとどうも座りの悪さを感じる場合もあります。たとえば、『蒙求(もうぎゅう)』という著作、唐代に書かれた非常にポピュラーな書物で、和刻本も何十種とありますが、どういう図書かというと「童蒙(=子ども)の求むるところ」というとおり、道徳的見地から初学者向けに韻文で編まれた、歴史上の有名人の逸話集です(たとえば「蛍雪の功」なんかもこの本が出典です)。
で、この本のNDC分類ですが、故事熟語?教育?倫理?伝記?いろいろ考えられますが、TRCでは(もしくは他の機関でも)、222.04 秦漢~隋唐の歴史、となっています。うーん確かに間違いではないとは思いますが、どうもいまひとつしっくりこない感じがあります。これはこれで仕方がないかとは思うのですが、この分類に並んでいる他の本とはちょっと毛色が違います。
もっともこの『蒙求』、四部分類でも「子部・類書類・彙考之屬」もしくは「子部・雜家類・雜纂之屬」と流儀によって割れており、分類しにくい本ではあります。「雜纂」というのもよくわからないし、といって類書ということでNDCでは032.2になるようなものと並べるとなると、それも何だかというところではあります。

では、これもメジャーな『世説新語』という書物はどうでしょうか。六朝時代に書かれた、当時の有名人の言行を記録したこれも逸話集ですが、これについては、NDC9版では923.4のところにはっきり「捜神記,冥祥記,博物志,世説新語,遊仙窟」と例示してありますので、NDCとしては923.4「秦.漢.魏晋南北朝.隋唐」の「小説.物語 Fiction. Romance. Novel」で確定ということになります。
一方、四部分類ではどうなっているかというと、これはどの流儀でも『世説新語』を「子部・小説家類・雜記雜説之屬」に分類しています(属名を「雜事之屬」としている場合もありますが、これは単に表記の違いです)。こちらでも「小説家類」とありますから、何の問題もないように見えます。
ところが、この「小説家類・雜記雜説之屬」の他の図書を見てみると、『西京雜記』『酉陽雜俎』『唐國史補』『陶菴夢憶』『幽夢影』といったものが並んでおり、これらはtool-iで調べてみると、みな924の「評論.エッセイ.随筆」に入れているか、あるいは歴史に分類しており、923にしているものはありません。これはどういうことでしょうか。

問題はこの「小説家」という言葉です。四部分類の子部の類の名称は、『漢書・藝文志』の記述を踏襲しているのですが、そこでは「小説」というのは文字通り「マイナーな言説」「取るに足らぬ言説」ということで使われています。ノベルやフィクションといった意味合いはまったくないのです。
ですので、四部分類で「子部・小説家類」に入れられているのは、「特に思想的立場の無い」有体に言ってどうでもいいような著作、ということで、自分がそのへんで見聞きしたものを書きとめたようなものが主たるものです。これらのものについては、後代では「筆記小説」という言い方をします。
こうした「小説」のなかでも「異聞之屬」に分類される幽霊や怪異の話(「捜神記,冥祥記,博物志,遊仙窟」はいずれもこちら)は、見聞記録のフリをした創作だったりしますから、「フィクション」ということで923にするのは正しいでしょうが、「雜記雜説之屬」に入るようなものは、基本的にほんとうに単なる「雑記」であって創作ではありませんから、924にしておくのが適切ということになるのです(※)。ちなみに前者のような怪異譚を「志怪小説」、『世説新語』のようなものを「志人小説」と言います(「志」は「誌」と同じで、「しるす」の意味)。

まあ「伝記小説」というものもあるわけですから、『世説新語』を923.4とするのは間違いでは無いのでしょう。ですが、7版までは記載がなくNDC8版になってからはじめて追加された「捜神記,冥祥記,博物志,世説新語,遊仙窟」という例示、ここに『世説新語』を入れたのは、「小説家」のほんらいの意味と関係なく、『世説新語』と言えば「志人小説」、小説ならばノベル、ということで入れてしまったのでは・・・と、正直ちょっと疑っていなくもないのですが、まあ今日のところはこのへんで。

6月から和装本について書いてきましたが、いったんしばらくお休みします。いずれまた書かせていただくつもりですので、よろしくお願いします。


(※)なお、前々回書いたような『西遊記』『水滸伝』といった白話小説は、創作として「集部・小説類」に分類され、こちらはノベルということで923でまったく問題ありません。

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