表紙よいずこ-和本の装丁(4)
こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。
前回まで、和本のさまざまな装丁ということで、冊子と巻物のことを見てきましたが、和漢古書の整理の現場では、そもそも狭義の「本」ではない、平面の紙1枚になっている絵図やら地図やらを整理しなければならないこともしばしばあります。
平面の紙1枚のこれらのものは、そのままの呼び方ですが「一枚物(いちまいもの)」と称します。中には、広げると非常に大きいものになることももちろんあり、そうした場合しばしば折りたたんだ状態で保存するようになっています。すなわち、現代書の地図などでもこれはよくありますが、最初から折りたたんだ大きさの表紙・裏表紙をつけて造本されているものがあり、これらを「畳物(たたみもの)」と称します。
和漢古書では、一枚物は「枚」で数えるのに対し、畳物は「舗(ほ)」で数え、対照事項として広げた大きさを記録した後に、折りたたんだ状態での大きさを括弧に入れて付記します。ちなみに、冊子は「冊」、折本と旋風葉は「帖」、巻物は「軸」で数えます(なお、現代書では、一枚物も畳物も「枚」、巻物は「巻」で数えますので、注意が必要です)。
一枚物や畳物の場合、書名の情報源としては、本紙に題字欄がある場合は、それが第一優先となります。畳物の場合は、表紙や題簽にきちんとした書名があることもしばしばありますし、以前合巻のところで触れた「袋」に入っていることもわりとあります。出版事項については、ちゃんとした刊記がある場合もありますが、図の欄外に小さな字で記されていることも多いです。
ただ、書写資料の場合は、情報がそもそも乏しいことが多く、目録作成にもいささか難渋します。端書(はしがき)や奥書(おくがき)があれば、その文中から書誌情報を拾うことができる場合もありますが、本紙の表には何も書誌情報が無く、紙の右上の裏にあたる端裏(はしうら)に記された後人の仮題からタイトルを採用するしかない、といったことも多いかと思います。
さて、この「一枚もの」と「畳もの」ですが、表紙や袋が残っている場合は「畳もの」ということで問題ありませんが、表紙が取れてしまっていると、折り目がついているからと言って、さてどちらとすればよいのか判断しかねることがよくあります。現状たたまれているとしても、それはたんに保存していたひとの都合で折りたたんだだけで、もともとは折りたたまないはずで造られていたのかもしれません。逆に刊記の配置などからして、明きらかに折りたたんだ状態を前提としているようであっても、表紙をつけた形跡はどうも最初からなかったりするものもあります。
ということで、このあたりの判断は何ともむつかしいところではありますが、折り目がついているイコール畳物ということではない、という前提のもと、個別に適宜判断していくしかないようです。
整理の現場では、こうしたもの以外にも、掛軸や歌留多(かるた)といった「物品」に出くわすこともありますが、こうしたものはやはり「博物資料」として、図書とは区別して整理したほうがよいでしょう。
証文や手紙などを含むいわゆる「文書(もんじょ)」も、物品などよりはるかに高い割合で和漢古書のなかに混在していますが、ほんらいは図書と区別して整理すべきものです。形態的には冊子のものも多数ありはしますし、『日本古典籍総合目録データベース』のなかにもけっこう数多く収録されてしまっていたりするのですが(つとに長澤規矩也氏がこのことを『国書総目録』の大問題点の一つとして指摘しておられます)、次回見るようにやはり根本的に違う性格のものですので、「図書」の整理対象からは原則としてはずすべきでしょう。
といって、コレクション形成の過程において、こうしたものも含まれてきてしまうのは、それはそれで当然のことでもありますので、まとまった分量でなく少量であれば、「図書」の目録規則をあてはめて整理するのは、現実問題としてはとやかく言うことでもないだろうとは思います。